第143話 姜芽の才

セニアは何やら満足げな表情をした。

「そうだ、まずは意識を集中し、魔力を高める。それが、星術…いや、全ての術を扱う上で大切なことだ」

それ以上は何も言わず、表情で「さあ、来い」と言ってきた。

そして、俺は術を唱える。


「[ヒートショック]」

高温の空気を吹き付けて攻撃する術。

熱で攻撃する、という意味では火の術と似た感じだが、れっきとした太陽術だ。

空気の温度は実に300℃。まともに喰らえば、火傷では済まない温度である。だが、これでも太陽術としてのランクは低い方だ。

…と、心の中の何かが言っている。


俺が術を使った瞬間、セニアは無色透明な結界を張った。それは非常に薄いが、1枚だけでも絶大な魔力を感じられ、どんな攻撃でも防げるのではないかと思えるほど強固であるように感じた。


それ故か、俺は彼女に何かを言うでもなく自然に次の術を放っていた。


「[シャインストーム]」

太陽の光と熱。その二つを分離させ、竜巻状に渦巻かせて攻撃する。竜巻の数は一つだが、十分に威力が見込めるだろう。

セニアは平然とした様子で術を受け切ると、「まずまずと言った所だな。…余計な事を言う必要はない、残りの5つを全て放つがいい。お前が覚えた術を全て、私が受けて見てやろう」と言って両手を腰の脇に当てた。


迷うことなく、次の術を使った。次に放ったのは「サンスコール」という術で、強烈な日光を空から降らせ、光と熱で攻撃するというシンプルなもの。

その次は「ライトフィクス」、2000℃の温度を誇る小さな光を大量に召喚して一点に集め、炸裂させる術を放った。

前者は下級の太陽術だが、後者は中級相当の術だ。


さらに続けて、「焦熱光」を放つ。

これは相手を灼熱の光の柱に封じ込め、その上熱を帯びた光点で縛りつけて焼き焦がすというもの。

ちなみに、これも中級相当の術である。


これを受けて、セニアは少しだけ表情を歪ませた。しかし、俺は彼女が何か言う前に最後の術を放った。

「ソーラーブラスト」。球状に魔力を貯め、ビームのようにして敵全体を薙ぎ払うように放つ。もちろん、熱と光を持っている。

使用にかかる時間はやや長めだが、それでも確かな威力がある。




術を唱え終わった時、セニアは口を開いた。

「見事だ。同じ術でも、詠唱者の魔力次第で威力が変わることがあるが…ここまでの術は、全て平均以上の威力だった。やはりお前には、術の才があるようだ」


「術の才が…俺に…?」


「そうだ。…お前は、今はまだ種族相応の強さしかない。しかし、これから経験と鍛錬を積んでいき、才を目覚めさせれば、例え守人のままでも勇人いさみびとに匹敵する力を得られるだろう」


「才を目覚めさせる…って、どうすれば?」


「それは、自力で見つけるのだ。だが、一つだけ予言しておこう。この先は、お前にとってはこれまで以上に激しい戦いが待っている。そしてその戦いの中で、お前は自身の力に気づく。そこからどうなるかは、お前次第だ」

予言…なんて当たるもんだかわからない、と言いたいところだが、この世界ではそうもいかない。俺は、セニアの言葉をありがたく受け取った。




「…さて、未熟なる者よ。一つ聞かせてもらおう」


少し休憩した後に空間を出ようとしたら、セニアに声をかけられた。


「…?」


「お前は、術と技…どちらを極めたいと思っている?」

正直、難しい質問だった。武器を使った技は強力なものが多いし、なにより派手でカッコいいからなるべく沢山使えるようになりたい。

しかし、術も悪くない…というか、技にはできないことができたりするから、こちらも捨てがたい。なにより、術は魔法とほぼ同義である。それがないのは、つまらない。

だが、その両方を取るということはできないのかもしれない。勿論できれば最高だが、そんなチートな性質が俺にあるのだろうか。


悩んだ挙げ句、こう答えた。

「どちらも、だ。可能なら、両方極めたい」


すると、セニアは少しの沈黙の後、にわかに微笑んだ。

「そうか…ふふ、白い人パパラギと言えど、そこは多くの者と同じなのだな」


ちょっと不安な気持ちになったが、セニアはすぐに訂正するように言った。

「ああ…勘違いするな。そのような思想を抱くのが皆と同じだと言っただけだ。むしろ、お前ならばその理想を現実にできうるだろう」


「えっ…!」


「多くの者は、技と術のどちらかにしか才がない。だが、お前には技の才もある。精神を鍛え、経験を積みさえすれば、その願いを叶えることは十分に出来る」

大賢者という肩書きの人にそう言われたのはとても嬉しかったし、わくわくした。だが、精神を鍛えるというのがいまいちよくわからない。


「だが、それを成すには多大な時間と努力が必要だ。もちろん、腕前を鍛える必要もある。せめて私が、その精神と術の腕をここでわずかにでも鍛えてやろう」

セニアは苺のそれより大きく、立派な杖を手に出した。


「ちょうど、お前は太陽術を覚えたばかりだ。試験としても都合がいい」


「試験…?」

そう聞くと、急に不安が襲ってきた。

ワードと今のセニアの行動からして、彼女と手を合わせることになりそうだが、大丈夫だろうか。


「薄々想像はついていよう。今度は、私がお前と直接術を交える。私を、術で打ち倒して見せろ」


「そ…そんなの、俺には…」


「何を怯える必要がある?別に、殺し合いをするわけではない。それに私は、お前に合わせて魔力を調節する。お前が私に勝てない理由は、どこにもないはずだ」


「…」

いや、確かにそうかもしれないが…俺と彼女とでは、年季や経験が違いすぎる。


そう思っていると、突然セニアが杖を振るった。

それと同時に、全身が凍りついた。



「…?」

不思議な感覚だった。

一瞬、全身が引きつったようになったがすぐに解けた上、さっきまでより体が軽い。軽い…というか、簡単に動けるというか。

もしかして、体の疲れが吹き飛んだのだろうか。


…いや、違う。吹き飛んだのは、疲れではない。

何となくわかった。消えたのは、きっと…。



「どうだ?体が軽くなったであろう?」


セニアの言葉で、俺は確信した。


「先程まで、お前の心には必要のない感情…恐怖や劣等感、不安があった。それを、私がまとめて吹き飛ばした。今、お前は体がとても軽くなっているはずだ」

やはり、そうだったか。いや、何となく自分でもわかってはいたが…まさか、それが物理的に体を動かなくしていたとは。


心を原点とした重りがなくなったからか自然に体が動き、全身に魔力を循環させていた。

「そうだ、その顔、その態度だ。それでこそ、才のある者に相応しい」


セニアは杖を床につき、宣言した。


「私はお前と同じ、太陽術で相手をする。私に膝をつかせることが出来れば、お前の勝ちだ。さあ…全力をもって、かかってこい!」


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