第142話 『太陽』の術
セニアは俺のすぐ後ろにいた人物…すなわち煌汰の方を見た。
「お前は…騎士のようだな」
「はい…」
見ただけで種族がわかるのか。すごい…のか地味にわかりづらいが、少なくとも俺にはできないことである。
「もとより月の術を扱えるだけあって、魔力がある程度洗練されている」
そうだったか?と思った。月術なんて見聞きしたことはほとんどない気がする。まあ、俺が見てないというだけなのかもしれないが。
「そ、そうですか…?」
「騎士や魔法種族にとって、洗練された魔力はいわば年輪のようなもの。生きていれば自然と洗練され、究極の形に近づいてゆく。だが、決して究極にたどり着くことはない…」
なにやら難しい話をなさっているが、とりあえず煌汰の魔力が洗練?されてるってことはわかった。どういう違いがあるのか、俺にはよくわからないが。
「お前は魔力の制御も容易にでき、魔力自体も相応にあるようだ。訓練を積めば、魔騎士まで登り詰めるのにもそう時間はかからないだろう」
「えっ…本当ですか…!?」
「魔力だけで言えば、の話だ。お前は、戦闘に関しては突出したものはない。…誰にでも言える事だが、戦闘と術の両方で地道に経験を積んでいくのが昇格への一番の近道だ」
「…はい!」
煌汰は力強く答えた。
というか、異人ってみんな昇格を志すものなのだろうか。中には、今の種族のままでいいって言う奴がいてもおかしくなさそうだが。
ここで、セニアは少し考えて言った。
「よし、ではこれより1人1人に星術を教える。各自の適性に合わせた術を、扱えるようにしてやろう」
1人1人に…って、どうやって?と思ったら、セニアは十数人に分身した。
…なるほど、そういうことか。どこぞのマッハで動ける先生のごとく、分身して1人1人にマンツーマンで教えてくれるというわけだ。
あれを見た時はこんな人がいたらいいなー、なんて思ってたが、まさか実際に体験することになろうとは。
しかも、セニアは俺たち1人1人と一対一で術を教えるために、と言って先ほどと同じ空間を人数分作り、個室を設けてくれた。
中に入ってみると、外の様子は見えないし音も入ってこない。これなら、外部から入ってくる情報に気を取られることもなく、集中できるだろう。
俺はセニアに厚く礼をした。
すると、セニアはこう言った。
「必ず星術を覚え、己のものにして見せろ。それが、最高の礼だ」
そうして修行の第二段階が始まった…といい所だが、その前に1つ。
セニアが、俺の適性について物申してきたのである。
「お前は、八属性では火と光に適性があるのだったな?」
「ああ」
「ならば、適性が太陽だけになるのは必然だが…珍しいな」
「そうなのか?」
「多くの者は、八属性のうち二つの属性に適性を持つ。同様に、星術においても二つの星に適性がある者が多い。お前の仲間たちも、大半はそうだった。一つの星にしか適性がない、という者はあまり見かけない。もっとも、術の効果が弱くなるわけではないが…」
そう言われると、なんかみんなより劣ってるような気がする。
複数のものを扱えるのが普通、というか大多数の環境において、一つのものしか扱えないというのはどうしても劣等感を感じてしまう。
しかし、そんな俺の気持ちを汲み取ったのか、セニアはこうも言った。
「気にすることはないぞ。扱える星術の種類が一つだけということは、それだけを追求することができるということだ。お前は、太陽術を専攻するつもりで修行に望めばよい」
「…でも、みんなは二つ使えるんだろ?それだと、どうも…」
すると、セニアは俺の口を塞いできた。
…こんなこと言うのもなんだけど、すごく綺麗な指してる。さすがは苺の母、といったところか。
「『器用貧乏』という言葉がある。例え様々なことができても、だからといって優秀であるとは限らない。星術に限った話ではないが、複数のカテゴリーの術を扱えるのに、その全てを使いこなすことができず中途半端になる者はごまんといる。そしてそのリスクは、複数の術を扱える者なら誰しもが抱えるもの。だが、逆に言えば一つの術だけを専攻する者には、そのようなリスクはない」
「でも、俺は火と光に適性があって…」
「火術と光術は、互いに近い関係にある。遠い昔に用いられていた術では、両者は性質が重なり合うことも多い近縁の属性の術として扱われていた。星術において、両者が太陽術にまとめられているのもそのためだ」
火の術と光の術が近い関係にある、というのには驚いた。でも確かに、光であるレーザーでものを焼いたり、日光をレンズで集めてものを燃やしたり…というのはあるし、そもそも火は明るい…つまり光を放つものである。
…って、そんなの関係あるのか?またもや、妙なことが頭に浮かんできてしまった。
いやまあ、この世界ではあるのかもしれないが…どうも、人間界の考え方だと少々理解が難しい。今更かもしれないが、この世界でものを考えるときは、人間界のそれは捨てたほうがいいのかもしれない。
「とにかく、お前が扱える星術は太陽の術だけだ。だが、だからと言って肩を落とす必要は全くない。術を極めれば、他の者よりずっと強くなれる可能性もある。…さあ、始めよう」
かくして修行の第二ラウンドが始まったわけだが、前のと比べると段違いに楽しかった。
今度の修行はとにかく思いつく術を唱えまくるというもので、先程閃いた術をひたすら使いまくった。
新たに閃く頻度はそこまででもないにしても、覚えたばかりの術を乱発出来るというのが爽快だった。
おまけに、セニアの術のおかげで魔力も時間もほぼ無限になっていたから、めちゃくちゃなくらい術を乱射できた。
また、セニアの助言を受けて基本術である「炎光・プロミネンス」も連発してみた。基本術はその名の通り各術の基本となる術で、適性さえあれば誰でも使えるものらしいが、この術から派生する形で新たな術を閃くこともあるらしい。
だから、こちらも乱射して何か閃かないか何度も何度も試した。
そうして、俺は全部で7つの太陽術を覚えた。
これだけ覚えられればいいかな、と思ったのだが。
「空撃ちするだけでは、本領を知ることはできまい。今覚えた術を全て、私に見せてみろ!」
セニアが、自分自身に術を放てと言ってきた。
確かに的みたいなものが欲しいなとは思ってたが…まあ、いいだろう。
俺は息を整え、胸に手を当てて魔力をみなぎらせた。
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