第141話 星術修行
それから、俺たちの修行が始まった。
ちなみに、苺と吏廻琉は参加しない。
修行の場は宇宙みたいな背景のきれいな空間。セニアが魔力で作り出したもので、外界とは時空の流れが違う上に飢えや渇き、眠気を感じることもないため、みっちり修行できるらしい。…精神と時の部屋、的な感じだろうか。
そこで行った修行の最初は、座り込んで意識を集中し、魔力の制御能力を向上させるというものだった。
魔力の制御なら、すでにある程度できる…と言いたい所だったが、余計な事は言わない方が良さそうなので言わなかった。
実際の修行の内容は、あぐらの体勢を取り、動かずにひたすら魔力を体に抑え込むように意識し続ける、というもの。
みんなが並んでそれをやっている様子はさながら座禅のようだったが、目を閉じるわけでもなく、動いたからといって何かがあるわけでもない。
ただし、わずかにでも動くと何か…『それまで続いていたもの』がプツリと切れるような感覚をはっきりと覚えた。
何なんだろうな…と思っていると、セニアがこんなことを言った。
「しばらく続けると、体を動かす時に何かが途切れるような感じがするだろう。その感覚は、魔力を抑え込めていた証拠だ。そのまま続けていけば、いずれ必ず大成するだろう」
それを聞いて、やる気が出てきた。
とにかく微動だにせず、魔力を体の中央に留めるように意識し続けた。
…しかし、ずっと同じ体勢でいると疲れてくる上に、足が痺れてくる。耐えていても、次第に痺れが強くなってくるのでいずれ限界が来る。
そして、とうとう足を動かしてしまった。
と同時に、魔力の制御が解けてしまう感覚も感じ…
「あれ?」
思わず声を出した。体勢を崩したのに、それまで続いてきたモノが崩れた感覚がまったくしない。なんなら、今も続いている。
これは、ひょっとして…。
「ほう、もうクリアしたか」
俺は、セニアの方を見た。
「感心だな、この短時間で魔力の制御を成し遂げるとは。守人にしては、優れた結果だ」
「…魔力の制御、って完璧なものなのか?」
「そうだ。難しい術を扱う上で、魔力を完全に制御するのは大前提だからな」
向こうを直接見て気づいたが、なんとセニアは口を動かしていない。なのに、声ははっきりと聞こえてくる。俺は普通に喋っているのに…。
「あ、あの。今あなたは…」
「『
ちょっと意味がよくわからないが、まわりを見ると誰も俺たちの話を聞いている様子はなかったので、たぶん「セニアの話は音声として聞こえる会話ではなく、こちらの言葉もそれに合わせた」というような事なのだろう。
「なんで、そんなことを?」
「会話のような音は、他の者の集中を妨げる。もっとも、真に集中できている者にとっては別だが」
真に集中…って聞くと、昔流行った全…なんとかってのを思い出す。まあ、あれは漫画の話だが。
その後、俺は部屋を出た。…直後、みんながぞろぞろと出てきた。
最初に出てきたセルクと龍神は俺が出て2日後に、次に出てきた樹や煌汰、ラギルはそれからさらに3日後以降に魔力を制御できるようになったらしい。
それ以降に出てきたメニィや亮は1週間や10日、あるいは1ヶ月以上かかったそうだが、いずれの場合もこちらでは数分程度しか経っていない。
セニアに聞いてみたところ、この部屋での1年は外界での1時間に相当するらしい。ということは、仮に丸一日修行すると24年間修行したことになるわけか。…驚きの効率である。
ちなみに、最後に出てきたのは迅であった。
彼は意識を集中し続ける事がなかなか上手くいかず、半年ほどかかったという。ずいぶんとかかったものだ。
さて、全員が魔力制御をマスターした所で、いよいよ星術を学ぶ。
俺たちはまた先程の空間に入り、セニアの説明を聞いた。
「星術は、太陽、月、星、
太陽と月はしっくり来たが、他はなんか独自のものという感じがした。というか、星が水と地属性っていうのは、ひょっとしたら地球が元になっているのだろうか?
「次に、星の適性についてだ。八属性と同じく、星にも術師ごとに適性がある。だが、これはそんなに難しく考えることはない。基本的には八属性と同じ、つまり火か光に適性があるものは太陽、氷か闇に適性があるものは月となる。そして、複数の星に適性を持つこともできる。…注意点として、星術は適性がない星の術は基本的に一切使うことができない。そして、八属性のような魔導書もない。したがって、自身に適性のない星術を使うことは諦めるのが身のためだ」
そこはちょっと堅苦しいというか、融通が利かないというか。まあ、仕方ないか。
それに、八属性のどれかに適性があれば星術にも適性があるということであるのだから、それだけでもいいとしよう。
「では、これより星術の基礎となる『星』を割り振る。…目を閉じよ。お前たちは、自身の適性属性は心得ているだろう。それを心に思い浮かべるのだ」
言われるがままに目を閉じ、自身の適性属性を思い浮かべた。
俺の適性は…確か、火と光。
光はあまり使ったことがないが、一応…。
突然、まぶたの向こうから強烈な光が差し込んできた。
それはまるで、太陽の光のような…。
「目を開け」
セニアの声と共に目を開けると、俺の目の前にはサッカーボール大の火球が浮いていた。
いや、火球ではない。全体的に白っぽく、時折大きな火柱を上げながら燃え盛る天体…。
これはまさしく『太陽』である。
「まずはお前から行こうか。姜芽、お前の星は太陽だ。試しに基本術を私に放ってみろ」
いや、基本術…って。そんなのわかるわけ…
と思ったが、すぐにその考えは消えた。
そうだ、いつものアレだ。
右手をかざし、自然と頭に浮かんでくる言葉を唱える。
「[炎光・プロミネンス]」
燃える音と共に空中に細長い赤い炎が現れ、ブーメランのような形になったかと思うと、音を立てずにひゅっと飛んでいった。
セニアは結界を張るでもなく回避するでもなく、杖を構えて普通に受け止めた。
そして、術を掻き消して言った。
「…見事だ。基本術でこれだけの威力があるなら、本格的な星術を使えば相応の威力を出せるだろう」
その言葉を聞いた直後、俺の脳内に次々と新しい術が浮かび上がってきた。
どれも聞いたこともない名前のものばかりだったが、効果はなぜかわかった。
そんな俺の様子を見て、セニアはうっすらと笑った。
「お前は力も魔力も優れているようだな。だが、あいにく今はお前だけの相手をしてやるわけにはいかない。…そして、次はお前の番だ」
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