第139話 荒野の熱戦
いざ、勝負…と言った所だが、真っ向から斬りかかることはしない。回避に自信がない…というわけではないが、リスクは減らしたい。
両手を横にやって掌を上に向け、火球を浮かべる。ちなみにこれは術ではなく、能力を使ったものである。
そして右手を後ろに振りかぶり、ボールを投げるように火球を飛ばす。
蛮族は斧を振って火球を弾いてきた。続けて3つの火球を飛ばしたら、2つは防がれたが1つは当たった。
しかし蛮族は平然とした様子で、斧を振りかぶって高く飛び上がってきた。
最初の蛮族の攻撃と同じようにギリギリまで引き付けて回避して、直後に反撃を見舞う。ところが、胸に剣を刺した時の感触が明らかに違った。
さっきの蛮族はサクッと刺さったのだが、今度のはなんというか、肉質が硬く、弾かれるとはいかないまでも受け止められるような感触が走った。
しかし、これで怯むわけにはいかないので、そのまま一回転して斬り払った。さらにそこから一度下がり、相手の脇腹を斬り裂きつつ払い抜けた。
蛮族は振りかぶる事も振り返る事もなく、再び斧を振り下ろしてきた。右に側転して回避したが、少しでも反応が遅れていれば食らっていただろう。
さらに、蛮族は斧を抜いたかと思えばそれを横に持って回転攻撃を仕掛けてきた。
さすがにこれを回避なりガードなりは厳しいので、ジャンプしつつ全身を魔力で包みそのまま空中で静止する。
そして相手の回転が止まるとすぐに、自然と浮かんでくる言葉を唱える。
「『烈火、即ち断罪の剣なり』。奥義 [烈火の裁き]!」
顔の前で構えた剣に渦巻く炎をまとわせ、振りかぶって勢いよく落下し、振り下ろす。攻撃が当たった所を中心としてある程度の範囲の地面に炎が残るため、それで追撃する事もできる。また、これによりたとえ攻撃を躱されてもある程度のダメージが見込める。
蛮族は攻撃が終わった所だったということもあって、防げなかった。
そして、見事俺の奥義はその頭を砕き、蛮族を即死させた。
剣を一度納め、辺りを見回す。
そして次の標的たる敵を発見した俺は、そちらへ向かって走り出す。
ちなみに地面はまだ燃えているが、俺がそれでダメージを受けることはない。まあ、当たり前と言えば当たり前だが。
向かったのは魔導書持ちの蛮族。
遠目に見た限り地の魔導書を持っているらしく、地面や空中から隆起した岩を出現させて樹と魔法対決を繰り広げていた。
突撃がてら「フレイムラッド」を放って相手の不意を突くと、相手は体勢を崩した。それを見て、樹が驚いた顔をした。
「姜芽!?」
「話は後だ!まずは、こいつを片付けるぞ!」
俺は剣を抜き、相手に突っ込んだ。そして盾を叩きつけた後、額に剣を振り下ろした。
ご多分に漏れずまだ生きていたので、剣を抜いて次は左目に突き刺した。すると、相手は動かなくなった。
「…助かったぜ!ありがとな!」
樹の声が飛んできたが、俺は振り向かずに言った。
「なんで武器を使わなかった?」
「いや…なんか、術対決したくなってな。魔導書を使ってくるとは思わなかったから…」
確かに、蛮族が魔導書を使う…っていうのはなんか意外ではある。しかし、出来ることならさっさと仕留めてほしかった。
「…まあ、いい。それより、他のみんなは…」
「それなら問題なさそうだぜ。だってほら…周りを見てみろ?」
言われる通りあたりを見てみると、なるほど既に大半の敵が倒されていた。蛮族はもちろん、異形の死体もあたりにゴロゴロ転がっている。…そう言えば、異形は倒すと消えるものと消えないものがいるようだが、この違いは何なのだろう?
そう思っていると、ハンマー持ちの蛮族が視界の外から飛びかかってきた。
反応が遅れたが、幸いにも横から魔弾が飛んできて敵を撃墜し、そのまま撃破してくれた。
魔弾を放ったのはナイアだった。
これまであまり魔弾を使っていた印象がなかったが…というのはさておき、彼女には感謝である。
「ナイアか。危ないところだった、ありがとな」
「礼なんていい。それより、今のやつで最後っぽいね」
「え?」
あたりを見回すと、確かにもう敵影は確認できなかった。
みんなは異形も含めて大勢の敵を倒した、それに対して俺が倒したのは4人だけ、それも全部蛮族…。なんか、劣等感を感じる。
だが、敵を全滅させるという目的のために貢献したことは間違いないのだ。落ち込む必要は無いだろう。
馬車に戻り、みんなに安全を確保できたことを伝えた。その際、一応被害がないか確認したが、問題なかった。
ちなみに、待機していたメンバーの1人である康介が目的地までの所要時間の予想を教えてくれた。それによると、ここから目的地まではおよそ3日。ただし途中で異形や蛮族の襲撃及び砂嵐に遭う可能性もあるため、確定ではないとのことだ。
計算したのか?と聞いたら、自分で計算したのではなくラギルと秀典が計算して出した答えだと言った。
すると、そこに龍神が口を挟んだ。
「康介は計算なんかできないだろ。やってもらったに決まってるよ」
当然ながら、康介は怒った。
「な、なんだよ!おれだって計算くらいできるぞ!」
「いやいや、何言ってんだ。お前が出来るのは、ハンマーをぶん回すのと食うことくらいだろ」
「な…ちげえよ!…くそ、兄貴!おれをバカにしやがって!」
そのセリフで、数名が驚いた。「え、兄貴?」「なんだ、龍神ってひょっとして…」と口々に言った。
そんな中、龍神はなぜかため息をついて言った。
「ああそうだよ、皆さん。こいつと宗間は正真正銘の俺の弟だ。この2人の性格は嫌ってほど知ってる、だから言えるんだ。…康介はただの食いしん坊、デブだってな」
すると、康介はまた喚いた。
「…だーから、おれは食いしん坊じゃねえっつってんだろ!ずーっとそうだよな!子供の時からそれ言いやがって!」
「いや、本当だろうが。…皆さん、食事の時のこいつを見てな?1人だけやたらと食うはずだ」
そう言われると、確かにいつも結構多く食べてるな…という気もする。あのふとましい体は、それ故だろうか。
…っと、野暮な話題は置いておいて、ひとまず部屋に戻って休もう。
新しい奥義を閃いたりしたからか、妙に疲れた。今は、一眠りしたい気分だ。
皆が康介と龍神の話題で盛り上がってる中、俺は自室へと転がり込んだ。
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