第138話 夜明け前の襲撃
突如龍神に叩き起こされた。
時計を見ると、4時半を迎えようとしているところだった。
「姜芽!…戦闘だ!」
跳ね起きて彼についていくと、既にみんな起き出してリビングに集結していた。
一方、輝や康介などは俺よりいくらか遅れてやって来た。それぞれ猶や柳助に起こされたらしく、目を擦りながらやって来た。
そんな中、樹が俺を見て言ってきた。
「来たか、姜芽!」
「樹…こんな朝っぱらから敵襲か?」
「ああ…砂嵐が止んだ途端、蛮族どもが襲ってきた!」
「マジか…!」
正直意外だった。来るとしたら、砂嵐に紛れて来るだろうと思っていたのだが。となると、今回の砂嵐は異形とは無関係なのか?
いや、考えていても仕方がない。まずは、敵を撃退せねばなるまい。
「向こうは斧とハンマー持ちがメインだ。剣か棍を使えるやつを優先して前に出そう」
え、棍?と思って聞いたら、ハンマーには棍が有利で、逆に大剣は相性が悪いという。
一応、相手が弱ければそんな気にする事でもないらしいが、あいにく今回の敵は普通に強い事で有名だそうなので、ラギルや秀典といった大剣使いの皆さんには万全を期すために休んでもらうことにした…まあ、起こしておいて申し訳ないが。
ただし大剣使いの中でもナイアは斧も持っており、戦闘でもそれなりに使えると言っていたので、連れて行くことにした。
斧は剣に弱く槍に強いそうだが、今回は気にする必要はないだろう。
ちなみにこの世界で広く使われている武器は全部で17種類あり、それぞれに特定の武器種との相性があるという。
それらをしっかり把握し理解するのが戦場に立つ上で重要らしいが、全て覚えるのは大変そうだ。
とりあえず、俺は剣と斧の相性さえ覚えておけばいいだろう。剣は斧に、斧は槍に強い。それを念頭に置いて戦うようにする。
外に出ると、目の前に大きな柱状の岩があった。偶然近くで停車したのだろうか。
ちなみに苺が出迎えてくれた。どうやら先に出て、辺りを偵察していたらしい。
「苺さん!…状況は?」
「完全に囲まれています。敵の蛮族は、ほぼ全員が斧またはハンマー持ち。獣人系や鳥系の異形と行動を共にしている者もいます」
「異形と…」
「ええ。異形に乗っている者や、取り巻きのように複数の異形を周りに置いている者もいるようです。…幸い、今は突っ込んで来てはいませんが、いつ来るかはわかりません…」
聞いた話は本当だったようだ。しかし、異形と手を組んで俺達を襲ってくるとは…。
「獣人と鳥、なのね?なら、都合いいわ」
ナイアの言葉に、驚きを隠せなかった。
「鳥系の異形は、風に弱いの。丁度私は風の術を使えるから、楽に撃ち落とせると思う」
すると、さらにセルクと龍神が反応した。
「鳥の異形は電属性にも弱いんです。僕も、彼女と同じように奴らを撃ち落として見せますよ」
「空を飛ぶ者は雷に弱い、ってのは鉄板だろ?…俺もやらせてもらうぜ」
2人は得意げな笑みを浮かべて言ってきた。まあここは彼らに任せても良さそうだが。
となると問題は、普通の蛮族たちである。
「蛮族は俺たちで片付けるか…」
「そうだね。僕とかいっくんなら、奴らとの武器相性もいい。ついでに獣人の異形も僕もやるよ」
煌汰は剣を抜き、顔の前で横に持った。こちらもまた、得意げな表情をしている。
「そうか…。まあとにかく、なるべく早く敵を全滅させよう。わかってるとは思うが、奴らを馬車に近づけるなよ。辛い相手の時は、有利な武器とか術を持ってる奴に変われ。みんな、いいな!」
剣を斜め前に突き出し、戦闘の開始を宣言した。
最初は普通の斧持ちの蛮族と交戦した。その風貌は、いかにも未開の部族といった感じの野生味あるものだった。
すげえワイルドな感じするな…と思ってたら、唸り声を上げて斬りかかってきた。
俺のそれと同等か一回り大きな斧を片手で持ち、振り上げて走ってくるのは地味に迫力がある。しかし、相手する際に重要なのは当たるか当たらないか、である。
すんでの所まで引きつけ、左半身を後ろに引いて横向きになって回避した。それと同時に相手の胸元を突き、素早く一回転して斬り払った。
これでは倒れず、再び斧を振り上げてきたので、盾でガードする。そして、身をかがめて勢いよく斬り上げた。
相手はふらついたので、素早く腹を突き刺した。
剣は貫通し、相手の蛮族はばたんと倒れた。
顔を上げると、
下手に盾を使わないほうがいいと判断し、剣で応戦する。しかし、そもそも斧と剣ではリーチや軌道の予測の面で剣の方に利がある。向こうが1方向に振り回すしかしてこないのに比べ、こちらは自由に舞えるし突くこともできる。
蛮族は高速で小ぶりの斧を振り回してきたが、軌道が読めるため回避は容易い。斧を振るい終わった隙をついて突っかかり、首を刺してそのまま斬り下ろす。
最後の抵抗とばかりに首の後ろに手を回してくるが、すぐにしゃがんで抜け出す。そして追撃とばかりに足を斬りつけ、倒れたところに再び剣を振り下ろす。
これで、二人目の蛮族も撃破した。
辺りを見渡すと、みんないい感じに敵と応戦していた。
セルクはカラスのような異形4体を相手取り、魔導書を開いて雷を落としてまとめて掃討し、その後に来た蛮族も攻撃を巧みに回避して返り討ちにしていた。
ナイアは大きな鷹のような異形とハンマー持ちの蛮族の攻撃をなんとか受け止め、術を唱えて異形を竜巻で飛ばしつつ蛮族の隙をついて斧を振るっていた。
もちろん、猶や煌汰、龍神も善戦していた。当然ながら、苺や輝も上手く敵を分断しながら戦っている。俺も、負けてはいられない。
相手はいないかと探していると、ひときわ大きな斧を持った蛮族と目が合った。
当然の如く剣を向けると、向こうも斧を一度に地面に振り下ろしてから肩に構えた。
やる気があるようでよかった。
では、お手合わせ願うとするか。
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