序章3・転移先で

ワープした先は、のどかな草原の中に伸びる一本の道の上。

まっすぐ伸びた道の先には3人の人間がいて何か喋っているが、よく聞き取れない。


しかもそいつらは、俺が元いた所…現代の日本では、見かけない格好をしていた。

どうやら、本当に異世界に来てしまったらしい。




深呼吸して、頭を落ち着かせる。

えーと、まずはあの人達に声をかけようか?


とりあえず、向こうの人達の方に歩いていく。


近づいていくうちに、連中の言葉がはっきり聞こえてきた。

だが、意味はわからない。


「あ、あの…」

とりあえず、声をかける。

連中はびっくりした顔をして、俺の体のあちこちを見てきた。

何か口々に言ってたが、意味がわからなかった。


しばらくして、何だかわめき出した。

…やっぱり、何て言ってるのか聞き取れない。

言語が違うのだろうか。


一応、英語みたいな発音の単語がちらほらあるのは聞き取れる。

でも、英語とは違うっぽい。

「ライト」とか「ブルー」とか、「トロール」みたいな事をごちゃ混ぜにして言ってるから、恐らく英語とはまた違った言語なんだろう。


そして、そいつらは俺を置いて走って行ってしまった。

やつらが向かった先には、村らしき集落が見える。

あそこに行こうかと思ったが、今のやつらに敵だと思われたんなら面倒だ。


桐生のやつ…

飛ばすんなら、こっちの事情を説明しやすい所に飛ばして欲しいもんだ。


どうするか考えあぐね、近くの岩に腰掛けた。

俺は、これからどうすればいいんだ。


状況の説明すらできないとなると、本当にどうしようもない。

異世界転移って、こんなのだっけ?




その時、何やら叫び声が聞こえてきた。

声の方を見ると、白い服を来た若い女が、粗野な格好をした四人の男に襲われていた。


奴らは、手に斧を持っている。

山賊、といったところか?


…おっと、これは?

ここからの流れは、何となく見当がつく。

つまり、俺はこれからあの子を助けて、それがきっかけで、冒険の旅に出る事になるわけだな?


そうと決まれば、即行動だ。



…ちょっと待て。

俺、戦いなんかできるのか?

一応、俺の背中には立派な斧がある。

でも、これだけじゃあな…


何の気なしに、斧を手に取る。

プラチナみたいな、真っ白い金属で作られたきれいな斧だ。

そして、やっぱり結構重い。


これが俺の武器…なんだろうが、このままではどうしようもない。

当たり前だが、俺は斧なんか使ったことない。


このままあの中に突っ込んでも、こっちがやられるだけだ。

一体、どうすればいいんだ。



「…!」

突然、俺の脳裏に電光のような閃きが走った。

…そうだ、これは俺の武器。

そして、俺がこれを与えられた理由は…



猛々しい雄叫びを上げながら、奴らの方に突っ込んでいく。

そして、奴らのうちの一人に斬りかかる。


相手は斧を受け止めてきたが、素早く回し蹴りをして転ばせ、その胸に斧を振り下ろす。

続けて、右側の男の方を振り向きつつ横に斧を振るい、その腹を切る。

残った二人が斧を一緒に振り下ろしてきたので、高々とジャンプする。

そして、左側の男の頭をかち割る。


血だらけになった斧を抜いて立ち上がると、残った一人が怒号を上げながらかかってきた。

斧を横に持って受け止めたが、少しずつ押されていく。


相手の腹を蹴って突き放し、向こうに駆け寄って斧を振り上げる。

男は悲鳴を上げ、血を吹き出しながら倒れた。


…かくして、あっという間に四人を片付けてしまった。

自分でも、信じられない。

さっきまで戦闘のせの字も知らなかった俺が、こんなイカついやつらを容易く…


訳がわからなかった。

斧を手にした途端、体が自然に動いて…


と、ここで女が声をかけてきた。

不思議そうな顔で、女が発した言葉。

それは、俺には「メテオ」みたいな事を言ったように聞こえた。


色々と訳がわからずきょとんとしていると、女は何か喋りだした。

というかこの女、よく見たら聖女みたいな格好をしてる。

もしかして、この辺の修道女か何かか?


そんな事を思ってると、女は俺の手を取って、引っ張るように歩き出した。

「ちょ、待てよ!」


叫んだが、女は答えることはなかった。

ただ、何を言ってるの?という顔をしていることだけはわかった。


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