序章2・招待
あたりを見渡してみたが、誰もいない。
(なんだ…?どういうことだ?)
振り向いてみたら、今抜けてきたトンネルもなくなっていて、植物に覆われたでかい岩がどんとあるだけになっていた。
「えっ?」
思わず声が出た。
なんだ?
マジで状況がわからん。
今までこんな場所見たことないし…
「それは、私が教えてやろう」
どっからか、声がした。
「なんだ…誰だ?」
「…もしや、私を忘れたのか?」
こちらを知っている、というのか。
言われてみれば、この声…どこかで聞いた事があるような気がする。
でも、誰の声かはわからない。
「そうか…それは残念だな。昔の縁で、お前をこの世界に招待してやったというのに」
どうやら、こいつが俺をここに連れてきた犯人らしい。
てか、心の声が聞こえるのか。
「姿を見せろ」
すると、空から何かがふわふわと降りてきた。
それは最初白い光に包まれていたが、着地と同時に光は消えた。
「…お前は」
そいつの顔には、見覚えがあった。
「久しぶりだな」
「一体、これは何なんだ」
「簡単なことだ。お前は、人間界と異なる世との境目を侵した。つまらない人の世に、別れを告げたのだ」
突拍子もないセリフに、困惑を隠せない。
「え…えっと、ちょっと言ってることが理解できない…」
「そうか。…ならば、こう言ったほうがわかりやすいか?『異世界転移』したと」
は?異世界…?
マジで何を言ってるのか、わからない。
「順を追って説明しよう。まず、私は独学である研究をしていた。
それは、目には見えないもの…この世の大多数を占めるものを、見えるようにする研究。
私は幼き日より、目に映らないものに憧れを抱いていた。
だからそれをこの目に見るために、私は人一倍勉強し、大学まで進んだのだ」
…ああ、そういう事だったのか。
昔は、あいつはなんであんなにガリ勉なんだろうな、なんてみんなで言ってたが…。
「そして、私はその研究の果てに、一つの答えに辿り着いた。
元より人間の目に見えないものを見ようとしても、無駄骨折りなのだと」
まあ、それはそうかもしれない。
でも、なんで俺にそんな話をするんだろうか。
「だが、ここで私は閃いた。
見えないものは掴めず、認識もできない。ならば、手に掴め、認識もできる見えないものを作り出せばよいのではないか、と」
「は、はあ…」
ちょっと言ってる意味がわからない。
天才の考えは凡人には理解できない、ってのはこういう事か。
「私はさらに研究を続けた。そしてその果てに、新たな世界を作り出した」
いや、なんでそうなったんだよ。
つーか、新たな世界ってなんだよ。
いくら天才とは言え、自力で新しい世界なんか作れるもんなのか。
いや、こう言ってるってことは実際に作れたんだろうが…すごすぎだろ。
「言っていなかったが、私は元より現世に飽きていた。こんな下劣でつまらない世界で生きる事に、飽き飽きしていた。
故に、私は新たな世界への夢を見た。
そして、それを夢から現実へと昇華させた。
それぞこの世界。名付けて『ノワール界』、またの名を『黒界』だ」
ノワール…なんかおしゃれな名前だ。
なんか聞いたことある単語だな…と思ったが、そうだ。確か、フランス語で『黒』って意味の言葉だったはずだ。
桐生は昔から色々と独自の考えを持ってたから、そこに首を突っ込むことはしない。
でも、異世界って…。
「なんで俺をここに連れてきたんだ?」
「お前は私の友人の一人だからな、優先して招待しようと考えたのだ。
だが…わけあって、お前が最後になってしまった」
「俺が最後…ってことは、他にもいるのか?」
「ああ。お前の他に、6人を招待している。
全て、かつて私とお前の友人だった者達だ。奴らと協力し合い、この世界で生きるのだ」
つまりなんだ、こいつは独学で異世界を作り上げて、昔の知り合いをまとめてそこに連れて行ったってことか?
で、それに俺も巻き込まれたと?
…いや、どういう状況だよこれ。
「理解できずとも、現実は現実。お前が異なる世界に来た…いや、行こうとしているのは事実だ。
その証拠…というわけではないが、1ついいものをやろう」
「なんだ…?」
と、背中にずしっとした重さを感じた。
それは、ちょっと重いもの…例えば荷物をパンパンにリュックとかを背負っている、なんてのとは明らかに違う重さであった。
手を伸ばすと、それはなんと立派な斧だった…。
肌にも違和感を感じて体を見下ろしたら、服がさっきまで着てたのとは全然違うものになっていた。
「えっ…これは…?」
「それは、お前がこれからを生きるためのツールとなるもの。
そして、この世界の者として自然な姿だ」
姿、と言うが、なんだか奇妙な力も感じる。
何というか…体の内側から込み上げてくるような、途方もない力を。
「お前は、人間の肉体を捨てた。この世界の人類、『
「異人?防人…?」
「そうだ。この世界の基本となる、人間の進化した存在。俗に亜人、と呼ばれるものに近いものといったところだな」
なら、そんな変な名前使わなくても 『亜人』でよくないか?
と思うのだが…まあ、こいつに言っても無駄か。
独学で世界作るくらいだし。
「そして、防人はそんな中で最も基本と言える種族だ。遺伝子的には、人間と殆ど変わらん。
違いは、優れた身体能力を持つこと。そして、仲間を思う優しさと相手に立ち向かう勇気を持つことだ。
将来的には、俗に勇者と呼ばれるような存在になることもできよう…」
それを聞いて、一気に心が熱くなった。
つまり、俺はゲームの主人公、勇者みたいになれるかもしれないのか。
「なれるというより、なってもらわねばならん。そのために、私はお前を招待したのだからな。
故に、お前の種族だけでなく、名前も変えた」
「…えっ?」
名前を変えた、ってどういうことだ。
そもそも、そんなことする必要あるのか。
すると、奴はどこか自信なさげになった。
「その点は…まあ、なんだ。亜人を異人と名付けたのと同じような感じだ。
それまでと異なる世界で生きるのなら、名もまた異なるものにしたほうがいい、と思ってな」
「は、はあ…」
やっぱりよくわからん。
が、まあいいとしよう。
「で、その新しい名前ってのは?」
「そうだな…お前の名は「
…どんなネーミングセンスだ。
「和人…いや、姜芽よ。繰り返すが、お前はもう人間ではない。お前はこの世界の人類、異人の中の一種族、防人となったのだ。
外見は人間に酷似していても、性質は大きく異なる存在。それが異人だ」
そう言われると、なんか異種族って感じがする。
「お前は、人間より遥かに優れた身体能力と肉体を得た。
そして、武器も手にした」
そう言われて、ふと背中にあるものが気になった。
改めて見ると、それは真っ白い立派な斧だった。
「それがお前の武器だ。
そして、お前には[異能]も与えた」
異能…つまり、異能力。
異世界ファンタジーもののお約束のアレか。
ちょっとワクワクする。
「お前には、[
火を操る能力…いかにもな能力だ。
「てことはなんだ、物を燃やしたり、火を打ち出したりできるのか?」
「努力次第で、だがな」
「…ん?どういうことだ?」
「この世界では、能力とは自身で使いこなし、洗練してゆくもの。
例え力を扱えても、努力をせずして、その真髄は発揮できん」
能力も自己鍛錬あるのみの世界ってわけか。
「そしてそれは術…俗に言う『魔法』も同様だ。
お前は魔法も使える。だがそれは他の異人も同じであるし、能力のように扱う努力をせねば成長はない」
まあ、それはそうだろう。ゲームでも、最初は弱くて、いろいろ使ってるうちに強くなっていくものだ。
「それから、最も重要な事を言っておく。
お前は武器を持っているが、技などは使えん」
「え?それじゃ意味ないじゃないか」
「それは、お前自身がこれから考え、身につけてゆくのだ。
この世界では、努力してこそ戦える」
なるほど…。
要は、俺はRPGの主人公みたいな状態になったわけだ。
最初は弱いが、旅の途中で色々なイベントをこなして、経験を積んでいって、技を覚えたり、魔法を覚えたりして、強くなっていく…という流れで、冒険していくわけだ。
「お前は私が選んだ7人の中の一人…努力さえすれば、確実に才を開花させられる。
常に上を目指し、鍛錬に励むのだ」
そういや、他にも6人いる…って言ってたな。
「ああ、頑張ってみる」
「よい返事だ」
そして行こうとした時、桐生は言い忘れてたと言わんばかりに喋ってきた。
「この先、お前には様々な試練が待ち受けている。だが、それらは決して越えられぬものではない。仲間と助け合えば、必ず乗り越えられるはずだ。それを、忘れないようにな」
「ああ」
「最後になったが…もう一度確認だ。
お前の名前は、生日姜芽。
そして種族は、
異能は[炎操]。いいな?」
「よーく覚えておくよ」
「よし。では、行こう。…我が友よ、よくぞ来た…この、『黒界』に…」
桐生の言葉と共に、俺はどこかへワープした。
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