黒界異人伝・異世界漂流譚 -とんでも同級生に異世界に飛ばされました-
明鏡止水
序章・異世界へ
序章1・寄り道
俺は
高校を卒業した後に今の会社に入ったから、今年で7年目になる。
俺の出身高校は、お世辞にも上位とは言えないどころか、むしろ底辺なまである、レベルの低い所だ。
けど、幸運にも俺は成績が軒並み良く、選択肢がそれなりにあった。
しかも、これまた幸運にも、入った会社は業績もそこそこよく、伸びしろも十分にある、「超」はつかないにしても、まあ結構ホワイトな会社だった。
最初のうちは大変だったけど、今は楽しくやれてる。
勿論、色々と大変な事はある。
でも、会社の人達はみんな親切だし、何より、俺を心良く迎え入れてくれた。
面接の時、社長に言われた言葉が今でも頭に残っている。
『出自は何だっていい。大事なのは、中身と心意気』
この言葉は、俺にとっての座右の銘だ。
だからこそ、俺は常に人間としての中身と心を大事にしている。
もちろん、見た目も大事だ。
だが、人間やはり一番重要なのは中身なのだ。
うわべだけいい人間ならいくらでもいるし、簡単になれる。
俺は、中身もいい人間でありたいのだ。
まあ、それが出来てるのか、と言われると何とも言えない。
努力してるつもりではあるが、それは俺個人の主張でしかない。
他人から見た時、俺がどう見えるかは俺にはわからない。
しかし、最近俺はこの生活…
いや、現実に飽きてきている。
もちろん、今の生活には満足している。
でも、もっと…
なんというか、刺激が欲しいというか。
それこそゲームとか漫画みたいなこと…
例えば、古典的な火星人っぽい見た目の担任を暗殺したりとか、派手な武器で飛竜とか何とかのモンスターを狩って、たまには独特なリズムを口ずさんで肉を焼きながら狩猟生活を送ったりとか、仲間を連れて魔王を倒すための冒険に出るとか。
そういうことを、一回はしてみたい。
何歳になっても、そういう事には憧れる。
まあ、そんな事できる訳ない。
よく、わかってる。
いずれにせよ、今俺が出来る事は、今を一生懸命に生きるだけだ。
さて、今俺は仕事が終わり、家への帰路についた所だ。
俺の家は、会社からさほど遠くない所にある。
実家は会社からちょっと遠いので、4年前に親元を離れ、今の家で一人暮らしを始めたのだ。
なぜ今の家を選んだかというと、単純に色々とアクセスが便利だからだ。
駅からほど近く、電車で楽に通勤ができる。
しかも、近所には飲食店やらスーパーやらがあって、なんなら車がなくても生活には困らない。
車は持っているが、ぶっちゃけあまり乗らない。
近所のアクセスが良すぎて、車に乗るほど遠出するような機会があまりないのだ。
最寄りのスーパーへは15分も歩けば着くし、駅だって同じくらいで着く。
なもんで、日常生活では車はほぼ乗らない。
それに、俺は健康には気を使っている。
2、3キロの道を車で走るくらいなら、歩いた方が健康にも家計にもいいに決まってる。
今日も電車で駅まで来て、後は家に真っ直ぐ帰るだけだ。
残業もなかったし、家でゆっくり飯を食おう。
たばこ屋の前の交差点についた。
ここは家から駅までの間にある3つの交差点の最後で、ここを過ぎれば家まであと少し。
信号が変わるのを待ち、横断歩道を渡る。
…ふと、右の道から行こうと思った。
いつもは真っ直ぐ行くのだが、なんとなく右から行こうと思ったのだ。
まあ、いいだろう。
右から行っても家には着くし、到達時間も3分くらいしか変わらない。
それに、たまには違う道を通るのもいいだろう。
薄暗い夜道を歩く。
こっちは店もなく、車も本道と比べると通らないので、少しばかり暗い。
しばらく歩いていくと、舗装されていない細い草の道が現れる。
ここを通り抜ければ、うちの前の道路に出る。
夏場は虫がすごいので通らないが、今は春。
虫はいないし、まだほのかに冷たい空気が顔をつついてくる感触が何とも言えない。
まだぬかるんでいる道を歩くこと10分。
俺は、ちょっと違和感を感じていた。
なぜなら、いつもはそろそろ見えてくるはずの、一時停止の標識が見えてこないからだ。
あれ?と思ったが、よく考えればこの道を通るのはかなり久しぶりだし、記憶違いってこともあるよな、と思って気にせず進んだ。
…やっぱり、おかしい。
もうトータルで30分は歩いた。
なのに、まだ家の前の道路に出ない。
でも、道はまだ続いている。
なんか、ちょっと怖くなってきた。
とりあえず、引き返そう。
そう思ったのだが、なぜか足が動かなかった。
いや、正確には、後ろに向き直って歩こうとすると、足がまったく動かなくなるのだ。
一方で、前に…この暗い、得体の知れない道を真っ直ぐ進む事は出来る。
「なんなんだよ…」
思わずそう呟いた。
嫌々ながら歩く。
「俺は早く帰りたいんだよ。早く終わってくれよ」
心の声が口に出た。
すると、道の終わりが見えてきた。
でもそれは、何だかよくわからないトンネルのようなものだった。
どうしよう、めちゃくちゃ怖い。
あそこに入ったら幽霊が出てきて、とかないよな。
俺は、幽霊は信じる派だ。
でも、面白半分で心霊スポットとかに行くタイプではない。
行きたくない。あそこに入りたくない。
心の底から、そう思った。
でも、引き返す事は出来ない。
胸を押さえ、呼吸を整えた。
こうなりゃ、仕方ない。
一気に駆け抜けてやる。
肩をならし、一気に突っ走った。
トンネルの中は真っ暗だった。
でも、そんなのは関係ない。
抜けられればいいんだ。
そう思いながら、全力で走った。
しばらく走ると、先が明るくなってきた…
やった、出口だ。
そう思うと、更に足が早くなった。
でも、にわかに疑問も生まれた。
今は夜のはず。明るい、ってどういう事だ?
まあ、細かい事はいい。
とにかく、今はここを早く出たい。
そして、家に帰りたい。
その一心で、走った。
トンネルを抜けた先は、変な所だった。
めちゃくちゃ明るい…というか、まんま朝。
しかも、辺りは見たことないくらいきれいな花畑になっている。
ここは、一体…?
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