第56話 何の根拠もない手段


 ——久しぶりに森へと戻ってきた。

 透き通っていた色の森は、不透明な色の木や植物に、小動物は獣系の魔物に置き換わってるかのようだ。


 ゲーム内では見慣れていたこの景色。

 シロシロはゲーム内のシナリオ通りに、ミソハム村や近隣諸国を滅ぼさんとする操られし聖獣となってしまったのだろう。

 

 これ以上進むと、シロシロと戦うことなるはず。

 でも勝算はある。

 10数年前ゲームで経験したことだとしても、俺はソロでもシロシロを幾度となく倒したことがあるのだ。

 しかも、ゲーム内のプレイキャラではないマヴの方が、今となっては動き易さの点で強いという自負がある。

 魔との戦い、シロシロとの特訓。

 元々は呪いを打ち破り、存在するかさえ不明なプレイキャラから殺されないようにするためやっていた、目的のない苦しいものだったが……。

 戦争を止めるとかいう、避難民のせいでイマイチやる気の出なかったことよりも俄然やる気のある舞台だ。


「やってやるぜ!」


 ——と思いつつ、俺は震えながら棍棒を振った。


 だって、もし負けたら死ぬんだもん。

 死体は爆滅して、次こそ生き返れなくなるだろうし。

 緊張しない訳がない。


 シロシロの不意な登場に怯えながら、不透明な色をした森をザクザクと歩く。


 ——いた、シロシロだ。


 巨大で真っ黒な木の表面に背中を付けて項垂れ、その体には黒い蔦が絡み付き、シロシロの体表面には洗脳の証である紋章が中途半端に入っている。


 こんな状況はゲーム内で見ていないが、そんなシロシロの姿を見て、俺は思わず叫んだ。


「シロシロ!」

「誰ですの? ——ううっ」


 声を出したシロシロの口からは、赤い血が流れる。

 俺は、黒い巨木に棍棒を叩き付けた。

 こんな、苦しそうなシロシロを見てはいられない。


 俺は、何度も何度も何度も、棍棒を木に叩き付け——


 崩れていく足元の地面から根がはみ出し、木は辺りを揺らしながら轟音と共に倒れた。


 シロシロは、自力で木から抜け出てきた。

 体にはまだ、何かの紋章が刻まれている。


「誰だか知りませんが、ワタクシのことは放っておいてくださいまし。……あの虫さんに負けてから、ワタクシは。ワタクシは——」


 シロシロは頭を抱えて苦しみ始める。

 明らかに様子がおかしい、俺はシロシロから距離を取ってから棍棒を構えた。


 倒れた木から、黒いオーラがシロシロの体に纏わりつき、その体に紋章を浮かせていく。

 シロシロは立ったまま目を瞑り、完全に操られている状態だ。


 ゲーム通りなら、倒せば元に戻る。

 いや、そんなこと考えてる場合じゃない。


 ——シロシロが、目を瞑ったまま俺の方へと詰め寄ってくる。

 

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