第55話 妹視点

「2人でよく分かんない話してないでさ、もう一回酒場へ行こうよ❤︎」

「いいや、俺は行くとこがある。これはガラが持っていてくれ」


 俺は耳のインカムを取り外し、ガラに手渡す。

 ガラは不満そうに口元を膨らませながらも、それを受け取った。


「ロックはガラを手伝ってくれ、俺の話が本当か分かるはずだ」

「別に疑っちゃいねえよ」

「そっか、助かるよ。それじゃあ行ってくる」


 俺は急いで森へと向かった。


◆◇◆


 アタシが「いってらっしゃい」と言い切るのを待たずに、お兄ちゃんは家から飛び出していく。

 いつも何かに焦ってたり、一生懸命だったりするお兄ちゃん。

 アタシは家族として、その支えになれていないのだろうか。


「おい、マヴの妹。さっさと言って終わらせっぞ。マヴよりも先にな」

「おにーさん誰? お兄ちゃんとどこで知り合ったの❤︎」

「そんなもんどうだっていいだろ。どうせ改変ってのをやられちまえば、お前と俺の関係だって変わるんだ」


 話はよく分かんないけど、態度がちょっとムカつく。

 ロックというおにーさんから顔を背け、アタシは耳にかけたインカムを押して「ベクー」と名前を呼んだ。


『あれ? ガラさんですか。どうされました?』

「暗黒の時空に転送してよ、ロックって人と一緒にね」

『いいですけど、マヴさんは?』


 ——質問の直後、インカムを耳から抜き取られる。

 見ると、ロックがその耳に着けようとしていた。

 わざわざ取らなくても、べクーの声聞こえるのに。


 粗野でやなヤツ。


「おい、ベクー。お前が魔法使いの本体ってのは本当の話か?」

『ああ……そういえばアナタも、改変前の記憶が消えない設定でしたね。マヴさんから聞いたんですね、本当ですよ』

「設定だあ? まあいい、俺にもアンタを手伝わせろ。魔法使いとは短い付き合いだったが、アイツのことを取り戻させてもらう」

『お好きにどうぞ。私は魂を集めて、この世界を取り返せればそれでいいので』


 ——また一瞬で、別の時空というものに移動した。

 相変わらず、よく分かんない話をベクーはしてたな。


「おにーさん。アタシは酒場のマスターに捕まって、牢屋から魂を探すね。おにーさんは酒場の中か外から、地下へと続く道を探して」

「捕まるって何だよ? ……そうすっとガラ、帰る時にお前まで探すハメにならねーか?」

「……それじゃ、付いてきてよ」


 酒場のマスターと目が合い、「お前また……」と言いながらカウンターから出ようとする。


「お邪魔しました」


 マスターに向けて笑顔を見せ、上の階へと上がり外に出る。

 外は何もない広い場所だけど、地面は土だ。

 足元を見ながら歩いていれば、異変なんてすぐ見つかるだろう。


「じゃあ……外なら捕まらないから、おにーさんは出禁にならないように酒場の中で魂見つけるか、お腹空いたら出てきて。お弁当分けてあげる」

「ああ。何か見つけたら待ってろよ、合流すっから」


 ロックは酒場の中へと戻っていった。

 嫌な感じだけど、さすがはお兄ちゃんの友達❤︎ しっかりしている人だ。

 ——でも、探すのはお兄ちゃんと一緒がよかったな。


◆◇◆

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