第53話 出直し
エレベーターの扉が開く。
入ってきたのは、牛のような顔をした大きなオークだった。
魔のオークとは様子が違い、派手な赤いシャツを着ているこの獣人は、少し先にある階のボタンを押す。
俺はガラと顔を見合わせながらも、三人とも無言のままで、スオオオンと上昇するエレベーターの音を聞いていた。
牛顔のオークが、入ってくる時と似たような作りの酒場へと入っていった。
……きっとメニューだとかがに違いがあるのだろう。
ガラと二人で黙ったまま、最上階への到着を待つ。
——着いた先は、木箱がいくつも置かれている物置だった。
誰かがいる、という様子はまるでない。
俺はインカムをボタンを押したまま、口を開く。
「べクー、最上階に魂なんてなかったよ」
『あれ? おかしいですね、確かに上の方なのですが。どこかに隠れていたりしませんか?』
うう……この木箱はゲーム内の破壊可能オブジェクトに似ている。
武器を振れば一瞬で粉々になり、まるで元々何もなかったかのように消えてなくなるだろう。
しかし出禁となった上で罪になりかねない行為を重ねてよいものか。
——バキッ、ズゴォ、ドカッ。
ガラはそんな切実な不安を一切感じていないのか、木箱を槍で粉々にしていく。
辺りには木屑が散らばった。
空の木箱だったみたいだ、なんか変だな……。
「何もいないみたい……❤︎ ざんねーん❤︎」
と、エレベーターの方で音が鳴り、俺たちを追い出したマスターが出てきた。
俺たちを見るなり両手にナイフを取り出して、ナイフ同士を当てカチカチ言わせてる。
逃げようにも階段が見当たらない。
「べクー、まずいよ。元の時空に俺とガラを転送してくれない?」
『分かりました』
——ナイフが投げられた瞬間に、目の前が町並みへと変わる。
日の明かりが少し眩しい。
『聖獣街に飛ばしておきました。それで、見つかりましたか?』
「いいや、いなかった」
『おかしいですね。確かに上の方にいるはずなのですが』
んん……ちゃんと位置を調べて欲しい。
あのあからさまに怪しい噂の方が、正しい気がしてくる。
「お兄ちゃん……なんで転送を頼んじゃうのお❤︎ アタシならよゆーで勝てたのに❤︎ このヘタレこんぼう❤︎」
「別の時空だからって無闇に敵対するとな、ロクなことにならないぞ?」
ガラは俺が死んでた1年の間で、すっかり血の気が多くなってしまったのだろうか。
混沌の時空では大人しかったのに。
しかし、改変の影響か。
聖獣街は普通の村へと戻っていた。
よく見るとシロシロの銅像も消え去っている。
と、ロックがこちらへ駆け寄ってきた。
「おいお前ら、もう帰ってきてたか」
「ロック! どうしたんだ?」
「……聖獣様がいねえ」
え……?
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