巨大酒場編

第50話 暗黒の時空

 テレポートした先は、室内だった。

 しかし窓はなく、出入り口もない。

 トイレの看板から先へ続く扉と、登り階段だけが見える。

 確かに酒場ではあるしかなり広いものの、言うほど巨大かというとそうでもない。


 椅子には魔や人が入り混じって座り、大人しく料理を食べたりお酒を飲んだりしながら談笑してる。

 ゲームとはまるで脈絡のない、イベント時の都市とも違う異質な時空だ。

 突然、グヴヴヴ〜……と音が鳴る。

 俺だ、出てる肉料理がマジ美味しそうだし仕方ない。


「マスター、それと同じのください」


 カウンター席に座って頼むと、マスターは首を傾げる。


「お前さん、誰なんだ? 招待状もなしにどうやって地下へ入ってきた」

「ええと、テレポートしてきました」


 マスターはカウンターに肘を付き、短い髭を指先で撫でながら俺の顔を舐め回すように見る。

 まずいこと言ってしまったか?


「魔法を使えるようには見えないな。それで? 金はあるのか?」


 俺が一万円札の束を懐から出して見せると、マスターはそれを見つめた。

 万が一の時に服に入れておいた金だ。

 正直言って、使い所なさすぎてシロシロに預けるか迷っていたのだが。

 持ってて良かった……。


 しかしマスターは、その束を俺の手元まで押し戻した。


「魔の死に名残りなんざ出して、何のつもりだ? 金を先に払えないなら料理は出せねえ」


 え、この時空での通貨って違うのか?

 もしかしてイベント限定のポイント集めて買うとか、そんな感じだったり……?

 俺は札束を懐へと戻す。


「金はどこで手に入るんでしょうか?」


 マスターは首を左右に振る。


「入口へ戻って注意書きを読め。全く、食いに来たんならテレポートなんか使ってくるな」

「すみません」


 意味が分からないままだけど、とりあえず謝ってカウンター席から離れる。

 ガラを探すと、少し離れたテーブル席で弁当を食べていた。

 何とマナーの悪い……。


「お兄ちゃん、べクーさんに魂がどの辺なのか聞いたら?」


 それが主目的なのはわかるけど……肉ッ!

 でもまあ、今回は大人しく諦めよう。

 持ってきたもの食べていいんなら俺もそーする。

 俺はガラと同じテーブル席へと座った。


「まずは腹ごしらえだ。ガラ、俺の分の弁当を出してくれ」

「やだ❤︎ べクーさんに聞いてからなら出してあげる❤︎」

「そう……。でも俺が聞こうにも、あっちから連絡が入らないと話せないっていうか。連絡手段がなくてさ」


 ガラは弁当を取り出し、呆れた様子でテーブルに置いた。

 そんな、役に立たねえコイツ……みたいな風に振る舞われても。

 悪いのは急にテレポートさせたべクーだぞ……? でも、俺が気付いていないだけで悪い部分もあったりするのか……?


「それじゃあ、また連絡が来るまで待つしかなさそうだね。それまでアタシは情報収集してようかな」

「待て待て、はぐれたら困るだろう。一緒に行動しよう、とりあえず俺が食い終わるまで座ってて」

「しょうがないなー❤︎」


 ガラは急に笑顔になった。

 こわい、切り替わるの謎だし喜んでるのも謎だ。

 それともゲーム内では話しかけられるまでストーリーが進まない都合上、待つのが大好きという神の慈悲みたいな性格が盛り込まれていたりするのだろうか?

 ガラはこの世界で初めて会った頃から、性格が謎めいてるんだよなあ。


 そういえば、ゲームが先でこの世界は後にできたとばかり思ってたけど、べクーの話的には逆っぽい気がする。

 んー、まあ今考えても仕方ないし。

 どっちなのか分かったところで何の意味もないか。


 弁当を食べ終わると、酒場のマスターがコチラを睨んでいた。

 そしてカウンターから出てきて、俺たちのいるテーブル前に立つ。


「お前ら出禁だ」

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