第48話 魔もあまり強くない

「お兄ちゃん、ザコザコ騎士が待ち伏せてるよお?」


 うむ、しかしこちらが見えているはずなのに動く気配がない。

 こうして油断させ、本体は透明化しているのか? またああやって刺してくるつもりじゃないよな?


 ……まあ油断しなければ反応できるだろう。

 鎧へ近付き、蹴りを入れると鎧はガシャガシャ音を立てて崩れた。

 小屋の中へ入り、瓶の転がっている辺りを探す。


 ……あった、確かにこれだ!

 この世界でこんなにスッキリする出来事は、転移して初めてだ。

 ガラと共に、そろりそろりと家から出ると目の前にはオレンジと黒の毛並みの魔がいた。

 炎魔法をチャージ中らしい。


「あれw 魔法使いちゃうw まあいっかw」


 魔が三又槍を振ると、溜まった炎が玉となり向かってくる。

 その火の玉を棍棒で殴ると、撃ち返った玉が魔に直撃して燃え盛る。

 なんかこの魔、シロシロが倒してたような気もするけど……。

 念入りにとどめさしとくか。


 俺は魔の体がミンチになるまで殴る。

 するとハンバーグが焼き上がった。

 美味しそうだけど、食べたくない。


「この魔が戦争を起こさせてたの?」

「そうかも。三毛又数の言ったことを信じるならね」

「うーん、とりあえず近くに腐敗した森がないか探そ?」

「そだね」


 俺たちは小屋から離れ、ぐるっと縁を描くように歩く。

 ……あった。

 空気が紫色に淀んでいて、黄土色の霧が薄らと掛かっている。

 臭そうだ。


「街のと全然違うんだけど……ウッ、くっさ❤︎」


 ホントにここまで匂いが伝わってきた。

 なんて言うか、野菜が腐った臭いを濃くした感じがする。


「まあこのくらいなら慣れるよ。行こう、魔もそんな強くはないでしょ」


 俺は安全のために脳内で強さランキング、いやtier表を作ることにした。


 tier1.べクー、シロシロ、シロシロが召喚したヤツ、その他エンドコンテンツボス


 tier2.ガラ、俺、フィールドボス


 tier3.鎧騎士、ロック、魔法使う魔


 tier4.村人


 フィールドボス複数出ることはゲーム内だと不具合扱いだったし、おそらくないだろう。

 それに万が一、未知のクソつよモンスターが複数出てきたら、一度の判断ミスにより一瞬で殺されることはあり得る。

 ハメを避けるよう位置取りしながら戦わなくては。


 森へ踏み込むと、早速モンスター……じゃなくて魔が複数体現れる。

 オオカミ型の魔らしい、近付くと距離を取りながら陣形を作ってくる奴らだ。

 ただ噛み付くしか攻撃手段がないようで、一斉に飛び付いてきたとこを避けて首狙いで武器を叩きつけると倒しやすい。

 ……これはゲームではなく修行で得た知識だが。


 基本的に強い魔は硬いので、回避しながらの攻撃か、対象ノックバック連打のゴリ押しで挑む必要がある。

 これはこの世界でも同じだ。

 アクティブ化するまでは何もしてこないので、火力があるなら先手必勝でカタがつく。

 そう、今ガラが槍で斬撃飛ばしまくって魔を葬っているのがいい例だ。

 ってもう倒したのかよ。

 この調子なら何の問題もなさそうだ。


 ガラが魔から落ちたお金に近付くと、ガラの方へ吸い寄せられて消えた。

 ……なんかアプデ入ってないか?

 インベントリオープンの件もそうだが、また俺だけ取り残されてないよな。

 腐敗した空気がほんの少し埋まり、次のモンスターが現れた。


 お次は巨大なトカゲらしい。

 俺もガラと混ざって戦い、棍棒でトカゲを殴り飛ばす。

 そういや、ゲーム内でのモンスターの湧きってどういう感じだったか。

 フィールドのセーフゾーンにはモンスター湧かなくて、森が時間経過で腐敗するシステムは、シロシロがボスで出てくるエンドコンテンツでだけのギミックだったような。

 んでも、シロシロと戦うことにはなってないしなあ。

 何か釈然としないな。


 俺とガラはどんどん魔を倒し、空気が綺麗になった。

 さて、あの半笑いで喋る魔は出てこなかったが……この調子で追い込み漁をかけて行けば、いずれ倒せるだろう。


「……ザコザコだったねー。溜めてた回復薬、全然使わなかったよ」


 マジか、そういうアイテムとかもあるんだ。

 ないもんだと思ってた、あるとしてもプレイキャラの騎士だけにしか使えないのかと。

 ただ鎧から刺されて即死したことあるからなあ、あんまり意味ないような。

 まあ、こんなことを直接言うのはよそう。

 準備してくれてることに感謝だ感謝。


「お兄ちゃん、何頷いてるの?」

「何でもないよ。それよりもドンドン魔を退治してこう。一方向に向かって退治して行けば、人を操る魔を追い込めるはずだ」

「それはそうなんだろうけど、もっと話さない? せっかく一緒にいるんだしさ、あまり急がないでゆっくり冒険しよ」


 ガラは俺に上目遣いして微笑む。

 まあ、村とかはもう全部滅んでるって話だし急がなくてもいいんだけど。


「ガラはさ、パパとママ、それにロックが避難民の為に働く日々を1日でも減らしたいと思わない?」

「それはどのみち、子どもが大きくなるまでの間は仕方ないから。お兄ちゃんは人を操るっていう魔を倒せば、すぐに世界が元に戻るとか思っちゃってるの? もームリだよ、人形になるのを選んじゃった人のことは元に戻せないもん」


 そう言われてみれば確かにそうだ……。

 死体はもれなくシロシロが爆破しただろうし。


「でもなあ」

「じゃあ、倒したらゆっくり帰ろ。どうせ一年間暇だし、ね?」


 話題探しだけでもうつらいというのに、新手の拷問だろうか。

 くっ、どうにか断れないものか。


「そのー、やっぱりできるだけ早く帰って、パパとママを手伝いたいというか」

「お兄ちゃん親孝行だね」


 !? 初めてガラから褒められたような気がする。

 それ以上、ガラは俺に何も言わなかった。

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