第47話 飴玉の瓶

 吟遊詩人たちと別れ、真っ直ぐと、しかし宛もなく進む。

 ガラは俺についてきてくれてはいるが、とても退屈そうだ。


「お兄ちゃん……何か話そうよ」

「話題は?」

「……ないけどさ。なくても話せることってあるでしょ」

「……例えば?」

「しりとりとか」


 やりたくないなあ、しりとり。

 部分メンテでコンテンツがほぼほぼ封鎖されてる間、チャットで何回かやったことあるんだよな。

 暇つぶしにはなるけど、途中から虚しくなってくるんだよあれ。


「……お兄ちゃんはさ、シロシロ様のことをどう思ってるの」

「何だよ、話題あるじゃん」

「今思いついたの! それで、どうなの?」

「ちょっと世間知らずな感じはするけど、すごく頼りになる人だよ。親代わりに色々教えてくれたし、気遣いもスゴい。俺がして欲しいこと何でも気付いてくれる」


 ガラは俺のことを睨み始めた。

 なんで? シロシロのこと褒めたのに、世間知らずって言ったの気に障ったのか?

 そんなにシロシロのことが好きだったとはな……。


「じゃあ、べクーさんのことは?」

「どうだろ……吟遊詩人っていう割には歌わないし。よく分からない人なんだよな」


 ガラは睨むのをやめ、にへーっと笑う。

 ガラもべクーのこと苦手に思ってた……のか? よく分からん。


「そうなんだ」

「世界がどうのって話も、頼まずに自分で何とかしてくれと思うよ」


 ガラは目を瞑って頷いている。

 俺たち、なぜか本筋と関係ないのに巻き込まれてるんだよな。

 ガラだってやりたいことあるだろうに。

 ……ん、ガラのやりたいことって何だっけ。


「そういやガラは、どうして旅をしたかったんだ?」

「単純に、世界がどうなってるか興味あったからだよ。アタシもお兄ちゃんと同じで、森と聖獣街以外は全然見たことなかったし」

「そうなんだ」


 ガラは頬を赤くしてる。

 これは何に対してのどういう反応なのか、全く分からん。


「そういえばお兄ちゃん、どうしてあの瓦礫の山の場所が分かったの?」

「あれはシロシロの家に地図があって、それを覚えたんだァ」

「へぇ〜。すごいね」


 ホントのことはもはや、呪いのあるなし関係なく言えないな。

 ゲームで見たとか言って、ゲームがどういうものか問われた場合なんて、説明でしんどい思いするのが目に見えている。

 

 と、ガラが丸い飴玉をどこからか手に取り、口へと放り込んだ。

 飴玉……なんか見覚えが。


「お兄ちゃんも食べる?」

「一個貰うよ」


 ガラへと両掌を差し出すと、その上に飴玉を一個置かれる。

 ……んー、この世界では見慣れないものだし、作れるのか怪しいんだが。

 それより気になるのが、どうして見覚えがあるのかだ。

 なんかスッキリしないなあ。


「これって買ったやつ? それともパパとママが作ったやつ?」

「べクーさんがくれたんだよ。瓶入りのやつ」


 ……あ。

 3歳の時か、たしかべクーラガルルがくれたんだ。

 それに鎧の小屋でも同じの見掛けたような。

 ……もしかすると、そこに魔法を封じる道具あったりしないか?

 鎧が既に所持しちゃってる可能性もあるっちゃあるけど、行く価値はあるのかも。

 

 


 俺は方向を変えて、道に沿わず歩く。

 たしかこっちが、鎧の小屋のある方向だ。

 川のある居住エリアの場所なんて一つしかない。

 吟遊詩人の話を信じて魔を倒しに行く前に、対策装備があるんなら取っとかなくちゃな。


「ちょっと、お兄ちゃんどこ行くの? 何か見つけた?」

「そうだな。思い出したんだ、大事なものがありそうな場所を」


 ま、落ちてない可能性あるし最悪の場合鎧が待ち伏せなんてことも……。

 いいや、さすがにそんな。

 俺が来るなんて知るはずもないもんなあ。




 さほど時間も掛からずに小屋へと着く。

 小屋の前には、鎧が突っ立っていた。

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