第44話 案外よわかった

「ああ、罠でしたね」


 トカフはゆっくりと頷いている。


贔屓ひいきにしてる奴から頼まれたんだ。アンタらと話して、悪い奴じゃなさそうだとは思ったんだけどさ。ウチはもう自分で口を動かすのにも疲れてきてるんだ」


 移動しようにも壁があって、ポータルの円から出られない。

 そしてトカフの背後から、鎧がスッと出てくる。

 ずっと魔法で隠れていたみたいだ。


「さあ、この武器でアイツらを倒してくれたまえ!」


 鎧にの手にそこそこ強い槍が渡る。

 ……イベント報酬の武器と同じで、性能は低いオシャレ用の槍だ。

 鎧はその槍を眺めた後、膝でへし折って捨てた。


 トカフは悲しそうに折られた槍を眺めている。

 俺がポータルを囲う透明な壁を棍棒で割ると、トカフは涙を流す。


「トカフさん、今は耐えて下さい……。これからきっと、楽しいことがたくさん起きますから」

「そうです。私が魂を集め切れば、ここは色々な人が集う混沌とした場所へと変化します。外では味わえないお祭りを楽しませてあげられますよ。それともここから出て、他の人々に混じって日々を過ごしてみますか?」


 トカフは首を横に振る。


「敵のくせに同情するなっ」

「どうか、悲しいことなんて仰らずに」


 と、鎧がいない。

 透明化して襲うつもりなのだろうか。


「ううっ。騎士様はウチの味方なんだよな……?」


 鎧がいないことに気付いたようで、2人も辺りを見渡す。

 狙ってくるとしたら……べクーの方か?

 いや……!

 何か重いものが空気を切り進んでくる。

 俺がそれを棍棒で払うと、案の定。

 剣を弾く音が響く。


 そして、鎧が姿を現した。

 その手には、剣ではなく杖がある。

 魔法を使うつもりか、だったら俺はそれより早く動いて、杖を弾き飛ばすッ!


 有言実行、俺は杖を弾き飛ばしてついでに鎧をボコボコに殴った。


 なんか早く動け過ぎて、暇だったのだ。

 ついでにベクーの魂が入っている本を奪った。

 鎧は床に倒れて動かなくなる。


「……トカフさん、気が変わりました。私で良ければいつでも話し相手になります」

「ウチはさっき、騙したのに。何言ってるの」

「あんなの騙されたうちに入りませんよ。ささ、この空間は色々なオブジェクトを置けるし楽しいですよ? タワマンでもホイッと作っちゃいましょうか」

「タワマン……? 人のこと?」


 ベクーはトカフに話しかけていたかと思うと、俺の耳の側へ口を近づけた。


「アナタが取り返してくれた魂で、私の力はある程度戻るはずです。今後はここから遠隔で連絡を取り、指示を出すので。それに従って……魂を集めたら渡しに来てください」

「ちょっと待って。鎧騎士がここへ来たらどうすんの」

「来れませんよ、入口閉じますから。しかもここは要塞にするのにいい場所です」


 なるほど。


 でもなんか引っかかるな……。

 そのやり方なら、鎧騎士から魂を奪われることはないのだろうが。

 んー、そうだ。

 このままだとガラとのふたり旅になってしまうんだ。

 ベクーと一緒でなくなるのは嬉しいものの、ガラと話すような話題なんて思い浮かばない。

 ああ、どうしよう……。

 

 考えているうちに、俺とガラは瓦礫の散った町中へと戻っていた。

 ガラは野営の準備を始めている。

 シロシロのやっていたことを思い出しながら、という感じでいて実に不器用だ。


 焚き火が逆さまに置かれ、カラカラ音を立てながら崩れる。


「お兄ちゃん、見てないで手伝って」

「うん」


 何を話そう。

 そればかり考えながら、設置を終える。

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