第37話 インベントリオープン

「今日はここまでで、野営の準備といたしましょう」

「はい」


 森の中、シロシロが置く動作をするとボンと煙が立ち、目の前が明るくなる。

 焚き火を……設置した? 

 さらにどデカいテントも同じ要領で置かれる。


「えっ」

「どうなさいましたの?」

「いや、コレって。魔法で出してるんですか?」


 きょとんとしてシロシロとガラは顔を見合わせ、ガラがニヤニヤとし始めた。


「お兄ちゃん、インベントリの開き方知らないんだあ❤︎ インベントリ童貞❤︎ 手塞ぎバカ❤︎」

「どうやって開くのか教えてくれない?」

「やだ❤︎ でもでも、アタシにも魔法使い探しやらせてくれるならあ、考えてあげてもいいかなあ❤︎ 魔を狩るのって大変で疲れたし❤︎」


 ガラの広げた手の中に、お弁当と割り箸が出現する。

 勿体ぶりながら食べている姿を、俺は見せつけられた。


「ちょと待て。そしたら誰が魔を狩るんだ?」

「んー? ロック辺りにでも任せとけばよくない?」


 ロックが聞いたら決闘になりそうな話だ。

 まあ、そうなるとしてもガラが勝ちそうだな……キャラスペック的に上だし。


「マヴくんもお弁当食べるんですの。ほら、できたてをしまってあったからホカホカですわよ」


 シロシロが渡してくれた弁当を受け取る。

 蓋を取ると、湯気がふわっと出てきた。

 てっきりまた虫でも食べて過ごすのかと思っていたが。

 インベントリ様々だな。


「ありがとうございます」


 にしても二人はゲーム内の如く弁当を出したが、ん〜……どうやるんだ。

 インベントリオープン! とか言ってくれるんなら俺も同じことすれば開けられる気はするんだが、予備動作というのが全くない。


「インベントリの開け方は、慣れないうちは目を瞑って心の中でインベントリオープンと言うと、コンソールが開いて収納したアイテムリストが出てきますの。あとは直感操作ですわね。便利だから覚えておくといいですわよ」

「なるほど」


 悲しそうな視線をガラがシロシロへと送っている。


「ガラちゃん。わざわざ条件なんて付けなくてもいいんですわよ? こういう情報は、知らないならすぐ共有するべきですの」

「でも、聖獣さま……」

「それに不器用ですわよ。こればかりはモノの言い方というのがありますわ」


 ガラの顔が何故か赤くなってく。

 なんだ? 話の流れ的に俺のこと好きとか?

 いやないない、ガラはゲーム内だとロックとくっ付いてるし、ここでも親しそうだったんだから何か別の理由でもあるんだろう。

 んー、でも不器用ってことは魔を狩るのが大変って理由とは違うか。


 ……んん、弁当美味いな。

 焼肉も良かったがこれもいい。

 それにデカいテントの中には灯りが灯っていて、ベッドの影が映っている。

 風情はないけど、快適な野営になりそうだ。


 しかし……そうとはいかなかった。

 何故かシロシロはベッドを一つしか用意しておらず、俺だけ地べたで寝ることにしたのだ。

 まあ明日には聖獣街に着くさ……。

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