第35話 会話2

 シロシロが鉄格子を殴ったり、掴んで揺らそうとしてみたりしている。


「困りましたわ、ビクともしません。街に戻らないとまずいんですのに」

「聖獣様、どうなってるの?」

「恐らく鎧騎士さんが何らかの妨害を仕掛けていたのでしょう。この世界で魔法を使えるのはあの方しかおりませんし」


 シロシロが石の壁を殴りつける。

 すると壁はあっさりと崩れるが、鉄格子が顔を出す。

 元々見えていたところと繋がっているようだ。

 さらにシロシロは石を崩していく。

 見た感じ、ここは牢屋というより檻かごの中らしい。

 今度は鉄格子の隙間に体を押し付け始め……明らかに無理そうだったのに、シロシロは檻の向こう側に出た。


「ふう……。出られたならこっちのものですわ。今からお2人をこちらへ呼びます」

「……はい」


 シロシロは両腕を頭上に上げる。

 すると、周囲が煙に包まれ……煙が晴れると、俺とガラは鉄格子の向こう側に出ていた。

 なんて便利なんだ。

 

「上手くいきましたわね。ちゃちゃっと出ましょう」

「はい」


 3人で階段を上がっていく。

 ガラは怖いらしく、俺の服の裾を掴んで引っ張りながら付いてくる。


 石を叩く靴の音が、大きく反響して聞こえる。


「ここ、どこなんでしょう」

「鎧騎士のおうちだと思いますわ。鍵のない牢屋なんて見たことありませんの」


 牢屋はみたことあるんだ……。


 階段の先を塞ぐハッチドアをシロシロが開けると、木でできた部屋の物置だった。

 部屋はどんぐりなどで散らかっていて、試験管がホルダーにいくつか差し込まれた小さな台、それより飴玉の入った瓶などが目につく。

 なんかこの瓶、見覚えあるんだけどな。


 と、シロシロがドアに手を掛け、隙間から外を覗き始める。

 そして飛び出して行き、すぐに何かが爆発する音が聞こえる。

 見に行くと、鎧の破片が辺りに散らばっていた。


「やっぱり騎士さんのおうちでしたわね。ふう、アダマンタイトの鎧じゃなくて良かったですわ」

「それじゃ、ここを出てとりあえず街へ戻りましょうか」

「そうですわね。マヴくんと一緒に旅をしたいって方は、とりあえず待たせておきますわ」


 んー、結局誰なんだか気になるけど。

 早くここから離れたい、鎧騎士とはあまり関わりたくないし。


 家を出ると、すぐ近くには川が流れていた。

 ゲームだと建築システムで、モンスターの湧かないフィールドには建てられるんだよな。

 いい場所だあ。

 鎧はホントにプレイヤーなのかも知れない、コミュニケーション取れないのがやや残念だ。


「聖獣様、どっちが街のある方向か分かる?」

「俺、土地勘あるから都市までの道なら分かるよ。2人とも、こっちです」


 ゲームだと三人称視点だったし、多分いける。

 いうて今もマップ覚えてるかは怪しいけど。


「どうして分かるんですの?」

「アハハ……」


 もし万が一、ゲーム関連のこと言って気絶するのが呪いとは違うヤツだったら時間巻き戻しちゃうし。

 誤魔化しとこ……。


「そういえば、お兄ちゃんって不思議なとこあるよね。3歳になってから急に流暢に喋るようになって、気絶するようにもなったし」

「ガラも2歳の頃には流暢に喋ってたじゃないか」

「ええ? アタシは産まれてきて目が開いてからはずっとだよ」

「……そうだっけ」


 ガラは特に、こちらを怪しむような様子はなくシロシロと手を繋いで俯いたまま歩いていた。


 ……メスガキ語録で煽ってくる赤ちゃんか。

 怖いな。


「聖獣様は? お兄ちゃんのこと不思議に思わない?」

「んー、何度目か魔と戦わせた時に、魔がどういう動きをするのか予め知っていたかのような時はありましたわね。それに何故かゴロンと転がって攻撃を避けたり、渡したポーション瓶を飲まずに手で砕いたりとか」


 ……なんか俺、シロシロといた時恥ずかしいことし過ぎてね?


 あの時はつい、ゲームで見た動きをマネしたりして。

 自分を操作キャラだと思って緊張を誤魔化してたっていう理由はあるんだけどさ。

 シロシロから見るとかなりの異常者だったんだな……。


「大丈夫です、もう呪いは解けましたから」

「ふむ、やっぱり呪いが関係してたんですのね。棍棒を眺めながらでぃーぴーえすがどうのとか、森の中で何度も腕を突き出しながら、アイス! とかアイシクル! とかアイスボルト! とかアイスランド、とか叫んでいたのもそうなのでしょうね」


 信じてなさそうな言い方だ。

 頼むからそういうことにしといてくれ……。


「それじゃあ俺も言わせてもらいますけど、聖魔獣哮拳伝承者せいまじゅうこうけんでんしょうしゃって何なんですか?」

「その昔、とある獣人から教わったんですの。そういう教室に2年通ってマスターしましたわ」


 獣人、それに教室って。

 言ってることおかしいよ。


「獣人見たことないなー。教室ってまだどこかでやってるんですか?」

「やってると思いますわ。でも人間には習得不可能ですの」


 何ガラは頷いてるんだ。

 獣人目の前にいるし。

 ……この世界のゲームっぽいとこ、住人は何とも思わないのか?


「……そういえばどうして魔は、倒すとお金落として消えるんでしょうか」

「お兄ちゃんそんなことも知らないんだ❤︎ 魔はお金と生命エネルギーから産まれるんだよ❤︎  だから財布は魔除け効果のある麻布じゃないとすぐなくなっちゃうし、生命エネルギーがなくなった魔はその場で消えちゃうの❤︎ ばーか❤︎」


 そういう設定は理解してるのか。

 なんか頭痛くなってきた。

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