第33話 働きたくない奴vs働きたくない奴

 街の酒場跡で向かい合い、シロシロが持ってきてくれた鎖付きの棍棒を手に取る。

 ロックは真顔で、殺意の籠った素振りを繰り返している……。

 斬られた風が勢いよく、俺の顔面に直撃した。

 それに目を細めると、ロックがニヤリと笑う。


 このくらいで優位に立ったつもりとは、底が知れるぜ。


 辺りには観客が集まり始め、シロシロが立ち入りを止めるよう、周囲にチェーンスタンドを引き並べる。


「危ないから立入禁止ですわよ」

「シロシロおねーちゃん! 触ってー!」

「はいはい、よしよし」


 シロシロが子どもを撫でている……だと?

 俺をあんな風に撫でてくれたことは一度もなかったぞ。


「どうした? おれの肩が暖ったまんのを、待ってくれてんのか? 武器は持ったろ、余裕ぶる暇あんなら、いつでも来いよ」

「待ってくださいまし。ワタクシが開始の合図をしますわ。ワタクシが上げて、降ろした腕。それが水平になった瞬間に動いていいですわよ」


 シロシロは子どもを撫でるのをやめ、解体されずに残っていたカウンターの前に立つ。

 いやまあ、俺も小さい頃に頼んでいれば撫でてくれてたんだろうきっと。


 周囲には床に取り付けてある机と椅子、少し足場が悪い分不利かもしれないが。


 横目でシロシロの動きを見張る。

 シロシロは大きく腕を上げて止め、そしてシュバっと降ろした。

 それと同時に机を棍棒で殴り飛ばすと、ロックは大剣でそれを防ぐ。


「おい! チビどもに当たんだろが!」

「やっちゃえロックのにいちゃーん!」


 子どもの声援に、ロックは照れ臭そうにしながら床の上で揺れる机を止める。


「応援されながら戦うハメになるとはな」

「ぶったぎれー!」

「おう!」


 ロックは俺の方へと駆け寄り、大剣を振り上げる。

 いや、おう! じゃないが。

 ぶった斬られたらまた死ぬわ。


 振り下ろされるより先に、棍棒を大剣に叩きつける!

 ごおんと音がし、ロックは剣を床へと叩きつけた。

 床は煎餅が噛み砕かれるように、バリッと割れて崩れ落ちる。


「それなりに力あんじゃねえか。聖獣様の弟子って割には弱え気もするけどな」

「そうだよ、俺は弱い。でもそんな俺よりアンタはもっと弱い」


 そう思わないと勝てる気しない。

 ロックは俺が近付こうと右足を出した頃には、再び剣を振り上げていた。

 ……棍棒で受けたら武器ごと斬られる!

 咄嗟に棍棒を捨て、白刃取りに臨む。

 

 ストッ。


 大剣は俺の両手に阻まれるも、ロックはそのまま押し込んでくる。


 フ ン!


 ロックは大剣を握り込んだまま宙に浮く。

 そのまま投げ、ロックはカウンターに叩きつけられる。


「……まだだ。俺は、……負けらんねえ」


 そう呟きながら立ち上がってきた。

 今の……言い直したのか?

 ロックも働きたくないということか。


 何だ、決闘を断らなかったからてっきり他の理由で受けたものと思ってた。

 しかしその気持ちなら、確実に俺の方が勝っている。

 だから俺の代わりに……働いてくれ!


 ふらふらと立ち上がったロックに向かって棍棒を振ると、その横顔に命中し——空中で二回転半を決め、仰向けに倒れた。

 ロックが体を動かす様子はない。

 回転しながらも大剣を離さないとは……その辺さすがだ。


「……体が動かねェ。おれの負けか」

「うっわあ❤︎ ロックさんのザコ雑魚ざ〜こ❤︎ お兄ちゃんの勝ちね❤︎」


 観客たちは悲しそうだ。

 でもいいじゃないか。

 ロックのことが好きならここにしばらく残ってくれるんだから、それはロックが負けるのを喜ぶのと同じようなもんだ。

 分かってるさ。

 俺が負けて食堂で働けば、どうせ煙たがるかロックに負けたヤツと言って後ろ指差してくるんだ。


 ガラがロックに手を差し伸べ、起きるのを手伝っている。

 

「マヴくん、それじゃあ1人で行ってしまいますの?」

「え? シロシロも来てくれるんじゃ」

「ワタクシはこの街の治安を守らないといけないから、行けませんわよ」

「そ、そんなの街の人たちに任せればいいじゃありませんか!」

「ぬいぐるみと子どもに、外から来る大人の避難民をどうにかする力はありませんわ」


 うっ……、クッ。

 俺には12年間、1人で生き抜くためとか言って厳しく育ててきたくせ、避難民には甘いんだな。


 そう言うんならいいぜェ……大都市周辺なら大体の土地勘はあるしな。

 いそうなとこに行けばいい。


 つっても、ロックには少し悪い気がするな……。

  ロックはベクーラガルルと一緒にいた時間、俺より長いし。

 ゲームではベクーラガルルの目的のために力を貸し続けていた。

 目的もなく戦場を彷徨っていたところ、ベクーラガルルと目的を共にすることで他の何か、生きるために大事なコトも共有していたのだろう。

 何か……愛情とか。

 だから、探しに行きたい気持ちは分かる。

 2人で行けたら良かったんだけどな。

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