第32話 テーマパークと化した街

「避難民が多すぎてな。村長の案でこうなった」


 街は跡形もなく作り変えられており、道を汽車の遊具が走り回っている。

 子どもは人のままであり、もはやテーマパークと化していた。

 俺ん家以外の建物はほとんど、子どもや人形しか入れないような大きさである。


「ついてきてくれ……」

「はい」


 何だか随分と嫌そうだ。


 ついて行った先では父と母が、厨房前に並ぶ子供たちに料理を出しまくる。

 ぬいぐるみが子供に付き添い、テーブル席に着くと、小さな椅子の上から向かいにいる子の食事風景を眺めだす。


「それで、どうして反対なんですか?」

「人手が足りないんだ」


 父は呆然としながら、席ではしゃいでいる子供とぬいぐるみの方を眺めた。

 人手……だと? 父と母がこれを経営してるのか?


「あそこに子供と一緒にいるぬいぐるみがいるだろう。アイツは食料の消費を抑えるためといいながら、後先考えずにぬいぐるみへと自身の魂を移した。ナイフを奪ってな。それが口火となりこの有様だ。子どもは人類を終わらせないためにと入れ替えられていないが……ワシとママが食と住の面倒を見るハメになっとる」

「毎日大変だけど楽しいわよ♡」


 なるほど、母はああ言っているが目の隈はそういうことか。


「悪いんですが、ぬいぐるみでも料理できるようにして済ませた方がいいような」

「アイツらじゃ食材を切れない。子どもにやらせた方がまだマシなんだが、それはそれで親が嫌がる」


 ええ……? そりゃ贅沢ってもんじゃないのか?

 と、厨房へぬいぐるみが上がり込んでくる。


「おい、ウチの子たちは昨日から何も食べてないんだ。並ぶのしんどいから、朝昼夜3食分きっちり貰ってくぞ。3人分な」

「へいへい。お好きにどうぞ」


 と、子供が転び、トレイの上にある料理を床にぶちまけた。

 器は割れ、子供が泣き始める。


「ああ、おー、よしよし。おい、オイラ床拭けないから拭いてくれよ」

「アンタらで頼みます。ワシらがそこまでやると、食事を回し切れんのです」

「そんなん分かってる。そっちの息子に頼んでんだよ」


 俺ぇ? そりゃ手空いてるけどさ、何で他人の世話しなきゃならないんだ?


「嫌です」

「そうかよ。じゃあ悪いが散らかしてくぜ」


 ぬいぐるみは片付けずに、子どもを厨房前の列に並び直させた。

 

「……悪い、マヴ。片付けてくれ」

「アタシがやるよ❤︎ お兄ちゃんはどんくさいからね❤︎」

「悪いなガラ」


 ガラは散らかされた料理を片付ける。

 何だ? この市民への不快感は……。

 助けてもらっておいて、なんて横暴な。


「マヴ。ああいう奴ばかりじゃないんだ、そう機嫌を悪くしないでくれ」

「……でも、これは。俺が手伝ってどうにかなる問題ではないでしょう」

「そうだな。シロシロ様とガラが毎朝の仕込みだとかを手伝ってくれてるから、回ってるようなもんだ。ロックさんもマヴを助けに行く間際まで、ありがとうな」


 そういう話じゃなくて、もっと根本的なとこだよ。

 疲れ切っててそこまで頭回せないのか? やーばいですよコレは。


 俺の肩に誰かが手をポンと置く。

 ロックだ。


「ま、こういうこった。この街のチビどもは約3000人。食料は案外潤沢に揃うもんだから、飢え死にさせることはないだろうぜ。新しい避難民はここんとこ来てねえし、ま、数年の辛抱だ。魔法使い探しはおれに任せとけ」


 行こうとするロックの腕を咄嗟に掴み取った。

 ……やりたくねえ。

 父と母のやっているコレを手伝いたくねえ。


 料理は苦手な訳じゃないが、上手いわけでも早いわけでもない。

 料理ふるまうのも好きじゃないし、絶対ストレス溜まる。

 例え感謝されても無理なもんは無理だ。

 自分の世話は自分でやれるだろ、やってくれ。


「……何だよ」

「魔法使い探しは俺がやる」

「手掛かりでもあんのか?」

「ないっ。でも俺はこんな避難民のために無賃金で働きたくないんだっ、頼む!」


 ロックは首を傾けながら、歯を食いしばりこちらを睨んだ。


「そー言うなって。やってみると案外楽しかったりするぜ?」


 いや、絶対そう思ってはいない顔だろ。

 そうかそれなら考えがある。


「じゃあ決闘だ。俺が勝ったらロック、アンタが俺の父と母を手伝え。もし負けたらアンタの命令を一つ、いいや二つまで聞いてやる」

「ほお? 妙に威勢がいいじゃねえか。乗るぜ」


 ……よっしゃ。

 俺がロックなんかに負けるわけない、12年の修行の成果を見せつけてやんよ。

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