第一章:消えた魔法使い、ベクー様と神様

魔法使い捜索編

第31話 死者の時空

「よお、気分はどうだ? マヴさんよ」


 気分も何も。

 俺は死んだ……と思うんだけど。


「ここはどこなんだ……」

「死者の魂が集まる時空だとよ。アンタをここにいる鎧が、何の気を起こしたか殺しやがって……。遥々ここまで回収しに来てやった」


 ロックが鎧にガンガンと手の甲を叩きつける。


「そうだ、何で俺を殺したんだよ」

「さあな。コイツは何でか魔法を使えてな、ここへ来れたんだ。それにこれからお前を生き返らすこともできるらしい」


 鎧は籠手の親指を上げ、人差し指の上に兜を乗せている。

 俺のことをいきなり殺しといて、ろくな理由も言わずに他の考えごとか? ふざけやがって。


「何でべクーラガルルを殺そうとしてたんだよ!」


 鎧は何も言わずに近付いてきて、虫あみを俺の方へと振る。

 あら? 何か体がめちゃ軽い。

 そして、虫あみ越しに2人が見える。


「話したくないらしいぜ。……コイツ、魔の手先みてーだよな。ま、アンタをまた襲おうとしたら斬るから心配すんな。それより魔法使いだ。アイツのいる宛てはあるか?」

「ありませんけど、探すんなら手伝いますよ」

「ねーか。ま、いいさ。アンタを連れ戻せりゃ今はそれでいい」


 と、俺の周りを飛んでいた天使のような光が鎧のかざす透明な板枠へと近付いていく。

 枠は既に一つ埋まっており、もう二つが埋まる。

 あと五つ空きがあるようだ。


「何やってんだコイツ。……とりあえずここを出るぞ」

「帰ったら俺、生き返れるんですか?」

「一緒に魔法使いを探すかは、帰ってお仲間方と話してから決めな」


 ロックが鎧を殴ると、鎧は少し狼狽えた後にべクーラガルルと同じ杖を手に取り……それから……俺は……。




「マヴぐん! 心配したわよー!」


 や、やわらかい。

 母が抱きついてきているのか。

 俺の体はベッドで寝かせてあったらしい。

 父と妹も涙を流しており、特に父と母は号泣だ。

 目の隈からして相当心配をかけてしまっていたのだろう……。

 出入り口の扉でロックがそれを見守っている。


「マヴくん、アナタは一年も死体のままだったんですのよ。それにしてもこんな……嘘のような話でも、信じてみるべきかも知れませんわね」


 マジか。

 あの12年間、仏頂面を貫いていたシロシロが目元に涙を滲ませている。

 しかし涙を拭うとすぐに、元の表情へと戻った。


「鎧は? アイツにはいろいろと聞きたいことがあるんだけど」

「騎士のことか。アイツはお前が目を覚ます前にどっかへ行きやがった。まあ気にすんな、どうせ何も言わねェ」


 不気味なヤツだ。

 それにあの板が分からない。

 プレイキャラの目的は特にないものの、チャプター上ではベクーラガルルの手伝いがほぼほぼだった。

 死者の時空ってのもゲームになかった要素だし、もうこれ以上チャプターに関係しそうなことはせず、ゆっくり過ごした方がいい気してくるな……。


 でもベクーラガルルは見つけ出したい。

 あの人の助けがなければ、俺は今頃呪いをどうにもできずにチャプター通り死んでいただろう。

 自害とかマジでムリだしな。


「心配かけて悪いけど、俺。ロックと一緒に旅へ出たい」

「すまんが反対だ。お前は確かに、聖獣様の元で長年修行し強くなったかもしれない。だがな……」


 父が険しい顔をしている。

 俺の自由にさせてくれると思ってたのに、賛成してくれないなんて。

 理由によっては家出しちゃうぞォ!?


「とりあえず街を見てくれ」


 言われるがままに街の外へと出る。

 すると、小さなミニチュアのようなサイズの街並みで……ぬいぐるみたちが生活していた……。

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