第30話 消滅

 双刃の槍を振り回し、ガラが森にいるモンスターの群れを片付ける。

 ガラは残心か? 槍を回していた。


「ふう❤︎ ラクショー❤︎ ザコザコ過ぎて笑えてきちゃうなあ❤︎」


 もうこの森も、ほんの一箇所。

 あの黒いコケの周囲、木や草の枯れている円の範囲でしか魔は湧かなくなった。

 一日一回倒すとそれでおしまいなのだ。


 グフフと笑い始めながら、ガラがこちらに気付き赤面する。


「い、お兄ちゃん。もう帰って来たの?」

「うん、調子見に来たぞ。全然大丈夫そうだな」

「魔とか言ってたからとんでもない相手だと思ってたけどお。熊より弱いじゃん❤︎」


 鍛えてないのに、その熊さえ倒せるガラはおかしいよ……。

 才能の差なんだろうなあ。

 魔の退治をやらせる前に一度手合わせして、俺、普通に負けそうになったし。


「ガラ、焼肉しない? パパとママの家の庭でやるんだけど」

「んー? 料理ってことお? いいよー❤︎」


 よしよし。

 もう肉の切り分けもタレの調合も済んでる、あとはベクーラガルルの作ったコンロに火を点して焼くだけだ。


 家族、そしてベクーラガルルとシロシロ、あと何故かロックでコンロを囲み、焼き肉を食べる。


「おおっ、見ろ。鎧の上で肉が焼けてくぜ」

「ホントだー❤︎」


 父が離れた所から俺たちの方を見守っている。

 どうやら痛風で、あまり食べられないそうだ。


「これいい具合に焼けてますわよ。ほらー、あーん」


 シロシロが不器用に握る箸先の肉へ口を開けて待っていると。


 ギシギシと、あの軋む音が鳴り出した——。


 なんで? 呪いは解けてるし、ゲームでこうなるからって理由で行動してるわけでもないのに、どうして今——。


「トモダチになれると思ったのに」


 誰かの寂しそうな、子供の声が耳に入る。


「みんなだけでも、早く連れてきてよ。騎士さま」


 何か、もの凄い加速の中で風邪ではない何かを切る感覚に襲われながら——意識が戻った。


「大丈夫ですの!? まさか、呪いがまだ解けていないのではありませんの?」

「いえ、大丈夫です」


 少し周りの様子が気になって、辺りを見渡すとロックと目が合う。

 ベクーラガルルが連れてきただけの、よく知ってはいるが全く接点のない相手だ。

 気まずさから目線を逸らすと、ロックは立ち上がって近付き肩を掴んできた。


「おい、魔法使いが。お前が目を覚ました瞬間に消えた、消えてなくなった。どういうことだ」

「魔法使い……ベクーラガルルのことですの? あの方は数十年前に人魔の均衡を築いてから、行方不明ですわよ」

「今そこにいたろ」


 ロックが俺の肩を揺らす。

 ちょ、ちょい。

 話の内容も気になるが気分が……。


「具合の悪い人をそう揺らさないでくださいまし。ベクーラガルル? なんて人、ここにはいませんわよ」

「呪いの根源ってヤツを、お前ら三人が倒したんじゃなかったのかよ」

「ワタクシとマヴくんで倒しましたわ」


 ……え? 俺は見てるだけだった気が。

 いや、今はそうじゃなくて。

 ベクーラガルルがいなかったことになってるのか。

 ロックの手が肩から離れる。


「どういうことだ……。まだこれからだってのに、雇用主が消えるなんてよ……」

「ロックさん、俺もべクーラガルルのことは覚えてる。戦争よりも今は」


 背中から何か、腹を冷たいモノが突き抜ける。

 痛い、何だこれ……。

 見ると、透明なもの。

 いや、剣に血が乗っていた。


 ……目の前ではロックが驚いている。


 俺、ここで終わりなのか。


 食事中に襲うなんて酷いヤツだァ。


 まあシロシロいるし、他のみんなは助かるだろ……。




 ——目が覚めると俺の周りには、やや黄色っぽくて翼の生えた、天使にも見える2つの光が飛んでいた。

 少し離れた、青白い小さな光の飛び回る場所。

 そこには、ロックと鎧が虫あみを持って立っている。

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