第29話 呪いの根源

 扉の先は想像と違っていた。

 元の時空で魔のいる場所はおどろおどろしかったというか、色々腐ってたり枯れたりしていたのだが。

 ここは紫色っぽい土と石ばかりで、月明かりのような白い光が水溜りで反射していて、妙に神秘的だ。

 口に入る空気は少し冷たい。

 出てすぐ、扉の前にべクーラガルルがたまごの殻のようなものを置く。


「地面の栄養が吸い尽くされていますわね。これでは魔すら生まれてきませんわ」


 その通りというか、ゲームの設定上でもそうだ。

 ただし魔力を生成しており、歩くだけでリスに変身させられたりと色々起きる。

 靴を履いていれば問題ない、お遊びのような機能ではある。


「……よく知っているな」


 ベクーラガルルが変身しているスケルトンの顔に、しょんぼりしたような眉が付く。

 魔に変身してる時はこういうデフォルメが付くのだ。

 ちなみにこの様子を魔の前で晒しても、変身していることはバレない。


「まだ疑うつもりでございますの?」

「そうだな。そんなことより急ごう、あそこに呪いの根源がいる」


 ボスマップは確か、建物の中だったはず。

 

 遠くに半壊した塔のようなものが見える。

 あそこで間違いない。

 ベクーラガルルは真っ直ぐとその方向へ向かう。


「魔、思ってたよりいませんね」

「ああ。魔は基本的に喰らい合って、生き残った者だけがある一定まで育つ。昔はここで低級の魔も湧いていたが……魔の糧となる栄養を吸い尽くすと沸かなくなった」

「とんでもないことをしましたのね」


 ベクーラガルルは項垂れて、骨をカラカラと鳴らす。


「その時に、生きている魔からも栄養を吸い尽くしてさえいれば。魔を滅ぼせていたのだが」

「残念ですわね。魔がいなければ今頃、人間の時空というのは平和でしょうに」


 んー、リアルではそうとも言い切れないのが難しいところだ。




「着いたぞ。ここに呪いの権限がいる」


 黒い触手の塊が、塔の中心部から黒い血管のようなものを伸ばし、壁に張り巡らせている。

 このボスは、通称で『もずくバーガー』と呼ばれていた。

 塔が崩壊し潰れる形で退場したので、そんな風に呼ばれるようになったらしい。

 

「あのうねうねがそうですの? なんだか、いかにもって感じですわね」

「魔法で援護する。炎が少し効くんだ、当てたら殴りに行ってくれ」

「はいな」


 ベクーラガルルの変身が解け、持っている杖の先から炎が湧き上がり、触手の塊にぶつかる。

 どこからか「ウボォ」と声が上がった、触手に口は見当たらないが、確かに触手の方から聞こえてきた。

 高速で触手が振り回され始める。

 シロシロは残像を出しながらそれを避け、中心部に一発拳を撃ち込んだ。

 

「オ〜ヴ…ゥ」


 声の低い人が足のツボを押された、そんな断末魔を上げ触手はぐったりとした直後、爆竹のように弾けていく。

 その跡に落ちたお金をシロシロは拾い、巾着袋にしまっていた。


「この魔はお金持ちですわね」

「……あっさりと上手くいったな。魔が寄って来る前に脱出しよう」


 ベクーラガルルがたまごの殻を手の上に持ち、それを握り砕く。

 すると、俺たち三人は入り口へと戻っていた。


「あら、まだ拾ってる最中でしたのに」

「金なんていくらでも魔から取れるだろ、出るぞ」


 ムスッとしながらも、シロシロはベクーラガルルの後についていく。


 通路を上りきり、口が勝手に一息ついた。

 次に吸い込んだ空気が実においしい。

 遠いとこから帰ってきたって感じだ。


「それで、呪いはホントに解けましたの? 試してみてくださいまし」

「んー、じゃあこれから焼肉食べに行きましょう! 街で豚や牛を買って炭火で焼いて、タレを付けて食べるんです!」


 辺りが一瞬、シーンとなる。

 と、シロシロの目から一筋の涙が。


「満面の笑みですわね。そんなことさえ今まで呪いで言えなかったなんて、辛かったですわよね。行きますわよ、ヤキニク」

「え、ええ。それで、ベクーラガルルはこれそうですか?」

「……その発言では、ホントに呪いが解けたとは言えないだろう。別のことを言ってくれ。呪いから逃れようとする、そんな内容だ」

「んんん。……これからは戦争を止めるために、べクーラガルル。協力させてくださいっ。魔が裏で糸を引いていることでしょうし」


 ベクーラガルルに向かって頭を下げる。

 ……呪いは発動しないようだ。


「問題なさそうだな」

「これでマヴくん、これからは言いたいことを言えますのね」


 んん……確かに呪いは解けたのかも?

 でもなんか引っかかるな……。

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