第28話 八つの時空

 ベクーラガルルがシロシロを疑り深く眺めている。


「視線が熱いですわ。体に穴が空きそうですの」

「どうして俺の居場所が分かったんだ?」

「魔のにおいを辿っていたら、こちらへと着きましたのよ」


 だだっ広い草原を3人で歩いて進む。

 2人は微妙な距離を保ちながら歩いてる。

 あまり仲良くなれなさそう。


「……シロシロ。君はオレに取り入るため、鎧を操ったんじゃないよな?」

「ワタクシにそんなことはできませんの。ほーんと、疑うのは勘弁してくださいまし。不愉快ですわよ」


 にしても、どうやって説明しよう。

 ボスキャラを倒せば呪いが消えるのはべクーラガルルも知ってることなのだが、重要なのは何故ソイツを倒せばいいのかだ。

 ……もう魔との遭遇から時間経ったし、一度やり方の提案って形で伝えてみるか。


「提案なんですが、さっきみたいに襲ってきた魔を追跡すれば、呪いの根源へと辿り着くのではないでしょうか?」

「んー、どうなのですか? 魔法使いさん」


 べクーラガルルは突然立ち止まると、杖を手に取った。


「……今まで、何処に向かって歩いていると思っていたんだ」


 不貞腐れたようにそう言うと、杖先で地面が削られてゆく。

 俺はシロシロと一緒になり、地面を覗き込んだ。


「いいか? この世界には物理的には切り離された時空が幾つか存在していて、その内の一つに呪いの根源がいる……時空は八つだ。一つはここ。もう一つは魔の故郷であり、呪いの根源のいる時空。魔も人間もみんな仲良くしていて、シーズンごとに何かのイベントを準備したりする混沌の時空もある」

「他の五つは?」

「別時空で死んだ者が霊魂となり、無数に彷徨っている青い光のある迷宮の時空。過去、この時空で家畜となっていた人間が閉じ込められている……魔が遊戯場と呼んでいる血生臭い時空。地表全てを覆う建築物と巨大な酒場があり、空は暗闇となっている時空」


 丸が八個描かれ、それぞれに人の時空、魔の時空、混沌の時空、迷宮の時空、遊戯場、暗黒の時空、と書かれていく。

 ふむ、最初の三つは分かるが、他は知らない。

 イベントで追加予定だったものなのだろうか、五つ目は行きたくないな。


「あと二つは?」

「一日中、太陽が地上を照らし続けており、白く様々な形をした建造物が多数ある無人の時空。あと一つはオレが倉庫にしている小さな時空だ、人が入れるほどの大きさはない」

「ふーむ。では今、呪いの根源のいる場所へと向かっているんですね」


 べクーラガルルは、人の時空の円から魔の時空の円へと線を引いた。

 それぞれの円のそばには、扉が描かれている。


「そうだ。シロシロ、君の力があれば難なく倒せる。ここから魔の時空への入り口に入る鍵はオレが持ってる。……先ほど鎧からくすねた物だがな」

「今はその扉へ向かっていますのね」

「ああ」


 草原を抜けてすぐ、天気が悪くなり始める。

 遠くまで広がっている水田と、平らだがヒビの入った旱魃かんばつ地帯が見えてきた。

 さらに遠くには、焼き尽くされて煙を放っている山があり……三つほど、灰色の雲まで巻き込みながら吹き荒れている竜巻が見える。

 世界の終わりみたいな場所だ。


「ここはオレが作った農場だ。見ての通り、半分ほど仕上がったところで魔からの嫌がらせを受け始めた。魔法で耕したりしてたから大した被害はないのだが、空の下でひとたび、本当の姿に戻ればこうだ」

「なんてことを……許せませんわね。それにアナタが魔を恨む気持ち、ワタクシにも分かりますのよ。アイツらはワタクシが入浴しているところをカメラで盗撮しに来るんですの」

「オレも監視されている。恐らく、空高くから」

「許せませんわね」


 なにやら意気投合し始めてる。

 仲良くしてくれるのは嬉しいけど、内容がなあ。


「マヴくんも呪いなんてものを掛けられて、さぞ嫌な思いをしているでしょう。そうですわよね?」

「ええ、それなりに」


 正直、呪いとかのきっかけがない敵に転生してたらマジで詰んでたろうからなあ。

 ホントは感謝してるよ。


「すまない」


 ……ん? べクーラガルルが何で謝るんだ?


「ベクーラガルルは関係ありませんよ」

「……そうだな。とにかく向かおう」


 べクーラガルルが杖を振ると、水田のほんの一カ所が霞んで消えていき、下へと降りる木製の階段が現れた。

 魔法で隠していたというより、空間が書き換わったようで。

 辺りの水田の水が流れ込んでいく。


「この先だ」


 階段の先は不思議と明るく、オレンジ色の光が足元を照らしていた。

 ふと立ち止まり背後を見ると、大小の本棚がパズルのように組み合わさっている。

 階段を降りた先には巨大な木の板が敷かれており、そのさらに先は土の坂道が続いている。


「先に扉の前で待っておく」


 ベクーラガルルはスケルトンに変身し、そこを滑り降りていった。


「ワタクシたちは歩きましょう」

「ええ」


 転べばそのまま落ちて行ってしまいそうな場所なのに、不思議と落ち着く。

 魔も通ったりするのでは? と階段辺りでは思っていたが、そんな雰囲気は全くない。


 一番下に着いたらしく、平らな道の先には白い扉があった。

 両開きで、その辺の家の玄関ドアと同じサイズだ。

 ……この先は人間のいない、魔の住処か。

 緊張してきた。


「あの、俺も魔に変装した方が良かったり?」

「呪われている人間は問題ない。オレに任せて付いてきてくれ」


 もうちょっと説明が欲しい。

 でもベクーラガルルは扉を開き、先へと進んでしまった。


「ワタクシたちも行きますわよ。聖獣拳で全てを爆散させてやりますわ」


 シロシロは鼻息を荒くしながら、そのあとを追う。

 ……俺が戦力になるのか分からないし、ここで待つのもありな気はする。

 でもさすがになあ、俺だけ安全そうな場所で二人が帰って来るの待つのは寂しいし。

 俺が戦いに加われるかはさておき、呪いの根源がゲーム通りかとか、確認だけさせてもらおう。

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