第27話 救出
シロシロが手の平で鎧の背に触れた。
すると鎧の両肩が胴から離れ、腕先がべクーラガルルの首から垂れ下がる。
べクーラガルルは瞬時に杖を鎧へと向ける。
すると、鎧はその場から消えていった。
あー……プレイキャラがいないとボスキャラに会えないんだけどなあ。
ボトボトと鎧の腕が地面に落ちる。
「ごめんあそばせ。何やら殺意を感じたので、手を出してしまいましたわ」
「……まさか、魔から助けを受けるとは」
「ワタクシは聖獣、シロシロでございますわよ。魔などではありません、せい! じゅう! ですわよ」
そう、聖獣が何なのかはよく分からないが聖獣なのだ。
シロシロのことはさておき、何で鎧がべクーラガルルを襲った……というか、襲えたんだ? ロックには攻撃できていなかったのに。
鎧やベクーラガルルが偽物だとかはないだろうし……この世界のルールはどう定められているんだか。
「マヴくんも説得を手伝ってくださいまし」
「それは無理です」
……そう呆れたような顔をされても困る。
もし下手なことを言って巻き戻しが起きたら、べクーラガルルを助けられなかったことになるかも知れない。
そうなるとこの世界の人間は終わる。
魔が人間を支配する世界へと逆戻りだ、当然俺や家族は家畜のように扱われ……
と、グイッと何かふわふわしたものから腕を引っ張られる。
まあシロシロなのだが。
「説得ができないのなら、せめて話をお聞きくださいまし。それで、どうやったら仲間にして貰えるんですの?」
「……どうしてもついて行きたいと言うなら、これを胸に深く突き刺してくれ」
べクーラガルルは、氷柱のように透き通った黄緑色の針を、俺とシロシロに渡す。
「刺すとどうなるんですの?」
「オレが死んだ時にその体を奪う」
「そういうのはお断りしますわ。ワタクシは手駒になりにきた訳ではなく、呪いを解くのが目的なんですの。二つ目はアナタが一度果たした、魔と人の均衡を保つことですわ」
シロシロはべクーラガルルに針を返す。
俺は……自分の胸に針を突き刺した。
「ちょっと、マヴくん!? 何してるんですの」
痛いけど、こうでもしないと信用できないのなら仕方ない。
何よりそうまでして貰わないと安心できないという気持ちを、鎧に掴まれていた時の絶望した表情から感じていた。
「……冗談だよ。これは刺す栄養剤のようなものだ、害はない」
「どうして嘘付いたんですの。許せませんわ」
シロシロは腕を組み、頬を膨らませておりご立腹の様子だ。
「まあまあ、刺したのは俺だけなんですし。俺は許しますよ」
「……でもこの様子じゃ、助けた借りもないようなものですわね」
それはそうだけど。
ベクーラガルルは大木を背にして座り込んだ。
「どっちでもいいよ。オレはもう疲れた、呪いなんて、もうどうでもいい」
「そうはおっしゃっても、アナタの魔法具がなければマヴくんは、今のアナタみたいになってたと思いますわよ」
「……もうそれで充分だろう。これ以上、オレに何を望んでいるんだ」
随分と落ち込んでるなあ。
励ませるといいけど、マジで会話苦手だし話がどこへ転がるやら。
つーか、なんて声掛ければいいのか分からん。
「呪いの根源がどこか、一緒に探して欲しいんですの。魔法使いさんなら、見つけるくらい簡単ではありませんの?」
「そんなのが分かってても無駄だよ」
「そうですか。それじゃ、気が乗ったらワタクシたちを手伝ってくださいまし」
じっと地面を見つめるべクーラガルルを置いて、俺たちは川沿いを歩く。
正直、疲れるのも無理はないだろう。
呪われた者たちを救えず、何人も看取ってきた上での仲間の裏切りだ。
ゆっくり休ませてやりたい。
「べクーラガルルは休んでてください、あとは俺たちでやります」
「……悪い、気落ちしていた。まだ休んでいる場合ではない。マヴ、シロシロ。オレは君たちと一緒に行く。この悪夢を終わらせよう」
立ち直るんかい。
でもすごく助かる、プレイキャラしかボスキャラに会いに行けないというのを変えられる可能性があるのはべクーラガルルだけなのだ。
「魔法使いみっけ〜w」
早速来た。
このオレンジと黒色のマスコットキャラは分身体でこうして会いにくる。
コイツはボスキャラの配下だ、叩きのめして追跡すれば、いずれボスキャラの所へ——。
……魔がシロシロから頭を叩かれ、爆散して消えた。
ま、まだ説明してなかったし? 一回くらい大丈夫か。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます