第26話 魔法使い視点2

◇ ◆ ◇


 鎧騎士の持つ部屋を借り、魔法薬の調合を続ける。

 

 手順通りやっても、あと10年は掛かってしまう。

 それでも完成させなければ。


 魔から呪いを受け産まれてきた者は200人、その内死んでしまった者は198人。

 あのマヴという少年は魔法具で乗り越えられたようだが、まさか魔と関わっているなんて。

 もう一人は、呪いで亡くなるまであと5年と85日。


 彼を助けても、またあの魔が襲ってきたら終わりだ。

 特別な力を使えると言っても、人魔との関係に均衡をもたらしたと言っても。

 誰一人助けられず、無関係だった人々まで巻き込み時間を浪費させる、最近はそれしかできていない。

 ……呪いをどうにかするなんて、無力なオレには元々不可能なことだったのか?


 不意に力が抜け、手元から試験管が滑り落ちていく。


 それをロックが受け止めた。


「大丈夫かよ」

「ああ、悪い」


 試験管を受け取りながら見たロックの目は、オレを疑っている。


「最近は強敵ばっかだな。魔ってのが人より上の存在なら、寛大なお心で見守りでもしてて貰いたいもんだが」

「冗談言うな」

「しかし、あの聖獣様ってのは頼めばそうしてくれそうだったぜ」


 何を言うかと思えば。

 ロックはオレの顔を見て鼻で笑う。


「ま、別の解決策もあるんじゃねえかって話だ。アンタのやり方には従う。そんじゃ、鍛えてくる」


 言うだけ言って小屋から出て行った。


 知能の高い魔は一枚岩だ。

 だからこそ均衡が守られていた。

 しかし呪いで掻き乱し、人間同士で争わせるという下劣な手を打ってきている。

 ……あの時、魔を完全に滅ぼしてさえいれば。

 こんなことには。


 製薬していると、何か上の方で燃えるような音がする。

 小屋を出て、手元に杖を召喚し近くにあった川の水を浮かび上げ、燃えている場所に当てがい鎮火した。

 火を点けたのは魔の仕業だろう、もうここがバレるとは。


 ……禍々しく赤黒い鎧を身に付けた、オレンジと黒の毛並みの魔が、細い黄色の目でニヤニヤ笑っている。


「見つけたぞ魔法使いw 死ねw」


 魔の持つ三又槍の矛先から火球が作り出され、次々と小屋へ放たれる。

 ……ウザったいヤツだ。


 鎧騎士が古屋から出てきて、火球を次々剣で防ぐ。

 その間に魔法を使い、小屋を水の壁で包む。


「鎧騎士もいるじゃんw 食らえ必殺魔法じゃw」


 魔は槍先から赤い怪光線を出す。

 鎧騎士の持つ盾が跳ね返し、それに直撃した魔は一気に燃え、こんがりと焼き上がる。


「……鎧騎士、よくやってくれた」


 鎧騎士は無言で頷いた。

 人間にこういった知能の高い魔を倒すのは不可能に近いが、魔法具があれば何とかなりそうだ。


 ふと、こないだの聖獣が脳裏に浮かぶ。

 アレはコイツみたいに先に攻撃してきた訳ではないし、自ら魔ではないと言っていた。


 本当なのかもしれない、何よりトドメを刺されなかったのが引っかかる。

 魔からすれば、オレのことはチャンスがあれば必ず葬りたいはず。

 ……昔、マヴと別れた時。

 あの時も感情的になり過ぎていた。

 次は落ち着いて話をしてみるか。


「鎧騎士。こないだの聖獣についてだが、考えが変わった。呪われた者たちを救うために、協力しようと思う。……手伝ってくれるか?」


 鎧騎士は突然、オレの首を掴む。

 足が地面から離れる。

 

 ……苦しい。

 腕を引き剥がそうにもビクともしない。

 

 ……そうか、そうだった。

 この人は自由に生きる冒険者だ、オレの頼みなど聞く理由もない。


 ロックだってそうだ、戦地で偶然出会っただけで。

 目的も知れない相手を……。


 自分の力を過信するくらいなら、オレは一人で戦うべきだったんだ。


 ……目の前にはあの白い魔と、マヴが見える。

 二人はこちらへと、一直線に向かってきていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る