第23話 敵対

 鎧の引いた矢が風を切りながら、シロシロの方へと飛ぶ。

 ……イタタッ。

 矢が俺の腕に突き刺さる。

 しかも一発受けただけの矢で、俺の腕は動かなくなっていた。


 速さには反応出来るが、もう次の矢を構えられている。


 どっと冷や汗が流れ出す。


「マヴくん! ううっ、無茶しないでくださいまし」

「ほほっ、大丈夫です、それより次がッ」


「もうやるしかありませんわね。フッ!!」


 シロシロが掛け声と共に天へと両腕を掲げると、雷が鳴り響き……その明減と共に謎の男が現れる。

 よく分からんが、何か召喚したらしい。

 ボロボロの黒いスカーフと長い髪を靡かせており、所々に鉄を当てた布の鎧服は彼が戦いに熟達していることを感じさせる。


 謎の男は太刀を片手に握ると同時に、鎧の背後へと移動していた。

 そして——鎧の上半身がズルリと切り崩れる……かのように見えたが。

 鎧は傷一つない、なのに膝から崩れ落ちて倒れていく。


「マヴくん。どうにか説得してくださいまし」


 え、あ、プレイキャラと戦う気満々だったのに。

 とりあえずべクーラガルルへと手を差し伸べる。


「すみません、俺たちは戦う気なんてないんです。シロシロは魔を狩り続けながら12年間鍛えてくれた、俺の師匠みたいなもんです」

「君はそのシロシロという魔に操られているのではないか?」

「誤解です。シロシロがいなければ、この辺りも戦争地域と化していたはずですよ」


 べクーラガルルは俺の手を取り、フラフラと立ち上がる。

 そして俺の手を振り解くと、杖を地面に突き立てた。


「シロシロ、あなたは何の目的でこの街にいる」

「マヴくんの呪いを引き延ばせたみたいなので、彼が家族とゆっくりしている間、ワタクシはお留守番していただけですわ」

「呑気なことを……では何の目的で魔を狩る」

「それは、ワタクシのような中立の立場から見て、人間が魔から一方的に虐げられているのは心地よくなかったのですわよ。お分かり頂けたかしら?」


 べクーラガルルは頭を抱え始め、振り絞るかのように喋り出す。


「……なぜ召喚魔法を使える、あんなことはオレにしかできないはずだ」

「これは魔法ではありませんわ。信号を送って、直に来てもらっただけですわよ」


 太刀の男はつまらなさそうに俺たちを見てお辞儀すると、レストランへと入っていった。

 ……お腹空いてたみたいだ。


「彼は誰なんですか?」

「寝る食う魔を狩るで毎日を過ごす、無口な島の浮浪者ですわよ。昔むかーし、島で彼を助けた時にこの恩は返すとだけ言っていましたわ。それ以来呼ぶと来ますの」


 格好いい人だと思ったけど、浮浪者ですわよ、の一言ですごく情けない人に思えてしまった。

 べクーラガルルが突然、乾いた笑い声を上げ始める。


「最後の質問だ、というよりこれだけを聞くべきだったか。なぜ呪いのことを知っている」

「マヴくんの両親から聞きましたの。魔法使いさん。他にも質問があるならいくらでもお答えしますわよ」

「必要ない。……」


 べクーラガルルの杖が光を放つ。

 すると、オレの腕に刺さった矢は消え、傷がみるみるうちに塞がってゆく。


「マヴ。悪いがその聖獣とやらには協力できない。オレたちはオレたちのやり方で、呪いを解く手掛かりを探す」

「え? ワタクシはこの街を守らなくてはなりませんから、協力できませんわよ?」


 辺りが一瞬静まり返る。

 考え見たらそうだ。

 この無駄な時間、俺のせいじゃん。


「……うるさい」


「待ってください、俺も一緒に」


 べクーラガルルたちはワープで姿を消してしまった。

 ……何であんなに、シロシロのことを敵視してたんだが。


「もう大丈夫ですわよ」


 すると程なくして、父、母、妹が道の物陰や木箱の中から出てくる。


「何だったんだ? アイツら。……マヴ、それとボス、大丈夫ですか?」

「ええ。それでマヴくん、これからどうしますの?」


 どうするったって。

 まずはシロシロの説得だよ、シロシロがいれば確実にチャプターのボス敵倒せて、呪い解けるし。

 ロックたちは何とかして探し出せばいい。

 ロックとべクーラガルルがシロシロのことを魔だと断定してたのは、何とも引っかかるけど。

 あとは最終チャプターのボス倒せば、世界は平和になって終わりッ!


 ……ただなあ。

 呪いを避けて説明するには、どうしたもんか。

 

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