第21話 仕様

 俺の買い物、ではあったのだが。

 服屋では母と妹からこれ着てみて、あれ着てみてと着せ替え人形のように扱われ、その後立ち寄ったレストランでは両脇からくっ付かれ食事どころではなかった。

 二人が楽しそうだからいいけど、疲れたぞ……。


「ありがとうございましたー」


 店を出ると、道で何か言い争いをしているのが聞こえる。

 大柄な男がその体よりも更に大きな剣を背負う姿、その隣には身を屈め顎に手を当てている……あれ?

 あの時シロシロの入浴を覗いた鎧ではないか! もう一人はべクーラガルルみたいだ。


 大柄な男は小さな犬のぬいぐるみを掴み上げている。

 んん!? これって。


 チャプター1の主人公、ロック。

 プレイキャラ。

 べクーラガルルの三人ってことか?


 チャプター1が進むのって、マヴの年齢的にもう1年は先のはずだぞ……。


「どうしたんだろー❤︎ ぬいぐるみ掴み上げちゃってださ〜い❤︎」


 ガラがクスクス笑い始め、そこへロックの目が向いた。


「おい、アンタら。この動く人形は何だ、誰の仕業だ?」

「知らなーい❤︎ そのお人形動くんだー、お兄さんもしかして病気? こわ〜い❤︎」


 ロックは明らかに苛立っている様子でガラを睨み付けてる。

 ガラは全く動じていない。

 不意にべクーラガルルと目が合い、腕を掴まれる。


「君……ちょっと来てくれ。悪いロック、少し外す」

「なんだ、知り合いか?」

「そんなところだ」


 べクーラガルルと話すロックの方を振り向き、俺は異様な光景を目にする。


 鎧がロックに向かって剣を振り下ろしているのだ。


 しかしその攻撃はすり抜け、ロックはまるでそれが見えていないかのように平然としている、妹も母もただ笑ってロックを見ているだけ……。


 俺やシロシロ以外に、あの鎧は見えていないのか?


 べクーラガルルに近くの路地裏まで引っ張られる。

 あれから12年、べクーラガルルはそれほど変わらない姿だが小さくなっていた。

 というより、俺が大きくなったんだな。


「久しぶりだな。……12年も放っておいて悪かった」

「いやいや、お気になさらず。それよりも呪いについてもう少し詳しく聞きたくて。人を殺した場合、呪い発動までの猶予は何時間伸びるんですか?」

「大体2日だ、50時間ほどになる。それより、この街でナイフを使ったのか?」


 頷くと、べクーラガルルは頷き返した。


「あのぬいぐるみが憑代か」

「そうです。本人から頼まれて、100人ほど殺しました」

「具合はどうだ? 幻覚や幻聴はないな?」

「ありません」

「それは何よりだ。しかし、ロックにどう説明したものか」


 べクーラガルルはため息をつく。


 なぜ一年も早く合流してるのか聞きたいけど、べクーラガルルとロックが話すのが先か。


 いや、どうせなら俺が話してしまおう。

 ロックは確か物分かりがいい方だし、今は敵対してないんだから接触しても問題ないはず。


 正直関わりたくないけど、会ってしまった以上は仕方ない。


「事情は俺が説明しますよ」

「そうか、ありがとう。では戻ろう」


 路地裏から戻ると、ロックは鎧と何か話している様子だった。

 ロックの鋭い眼光がこちらを向き、近づいてくる。


「お前ら、何話してた」

「呪いの話だ。俺は産まれつき呪われてる、だからべクーラガルルはそれをなんとかするために協力してくれてるんだ。そのぬいぐるみは呪いをなんとかした、副産物みたいなものだよ」

「……悪い、さっぱり分からねえ」


 だ、ダメか。

 伝わるよう努力したつもりなんだけど、俺のコミュニケーションスキルが低過ぎたみたいだ。


「そのお方はこの街を魔から守ってくれてる、聖獣様のお弟子だよ。ワシらは戦争難民だったもんでな、魔法具で殺して貰って、体を替えたのさ。魔法使いさんと一緒なら、呪いは知ってるな? お弟子が宿命宿ス呪を掛けられてるから、ワシらとは利害の合う話だった訳よ」

「そうか。てっきり魔の仕業だと思ってたぜ、悪かったな」


 ロックはぬいぐるみを地面に降ろす。

 ふう、助かった。

 こっちは解決したが、この鎧はどうしたものか。


 と、剣がこちらへ振り下ろされる。

 危なっ、話の最中にやられてたら避けらんなかったかもしれん。


 ……鎧はじっと俺の方を向いている。


「あの、べクーラガルル。このお方は?」

「ああ。魔法薬の製薬中に戦争で傭兵をやっていた彼が飛び込んできてな。長年掛けて調合していた魔法薬がダメになった代わりに、こうして呪いの元凶を討つための旅をしている」

「実際ンとこは分かんねえだろ。この騎士、喋らねェんだからよ。まあ呪いの元凶とやらはおれたちで倒しとくから、心配すんな」


 何してくれちゃってんですかね?

 ……いや、これはシロシロの行動を変えて本来起こらないはずの戦争を起こした俺のせいでもあるよな。

 で、一年早く旅に出てくれてる訳か。

 ってそれよりも鎧だよ鎧。


「もう一人のお方は?」

「彼も戦争に加わっていた傭兵だ。呪いを終わらせるために協力してもらうことになった」


 鎧は俺のママと妹をしゃがんで下から覗き込もうとしたりしている。

 しかしまるで透明人間のようだ。


「お兄ちゃん、話は終わった? 帰ろうよ」

「ああ、もう少しだけ待っててくれ」


 考えてみれば、ゲームプレイヤーはそういう感じだったかもな。


 チャプター中、移動可能な時キャラに話しかけても独り言を聞けただけな気がする。

 ゲームとシステムがほぼ同じだとすると、コイツがチャプター進行しないと……ロックとべクーラガルルはこの場で置き去りになって、動かないまま時間経過して俺の呪いの猶予削られたり?


 さすがにその場合はその分の猶予も伸びて欲しいが。


「どうした。一緒に旅したいのか?」

「あ、ええ。目的は同じですし。シロシロも連れて行きたいです」

「構わないが。先ほどぬいぐるみの言っていた聖獣とやらか。聞いたことのない存在だ」


 そか、知らないんだな。

 魔のような見た目だけど、カワイイし何とかなるだろ……多分。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る