第18話 入浴
「ご機嫌いかがかしら? 一日で随分とやつれてしまわれたようですが」
「うん……」
疲れた。
精神的にきた。
直後に蘇生したとはいえ、人をたくさん殺してしまったのは事実。
やってる間、ずっと考えないようにしていたが、シロシロが死体を爆散させる度に嫌な気持ちは増し……口から血でも吐き出しそうな気分だ。
「ふう。ワタクシも疲れましたわ、ゆっくりとお湯に浸かりたい気分ですのよ」
シロシロは森の中にある、秘湯へと向かってゆく。
ゲーム内では週に5回は侵入不可能エリアの中へと消え入浴していた。
その際覗くことはできず、風呂上がりのシロシロを出待ちするプレイヤーは一定数いる。
俺がシロシロの裸に興味あるわけではない、ギルドメンバーがそっちの趣味で、シロシロについて気持ち悪いくらい詳しかった。
月やシーズンごとの行動周期は勿論のこと、シロシロの反応や独り言のセリフもデータを取っているせいで、俺はシロシロの最も多く言った言葉が。
「何者かの視線を感じますわ」
……明らかにソイツに向けられた言葉だと思っていたのだが、たった今秘湯の方から生台詞が聞こえてきた直後、シロシロの悲鳴が上がった。
「シロシロ!? 大丈夫ですか!?」
「マヴくん、すぐに来てくださいまし」
俺は決して下心を持って入るわけではない。
呼ばれたので行くだけだ。
でも湯気立つその場所に目を向けた時、不意に生唾を飲み込んでいた。
そして、草木に混じって無骨な鎧姿の何かがお湯に肩下まで体を沈めたシロシロのことを、じっと眺めていることに気がつく。
「あの人、いつの間にかこちらを向いていましたの」
俺が近付くと、鎧は渋々と去っていった。
何なんだ?
「助かりましたわ。それじゃ、もう少しで上がりますので順番を待っていてくださいまし」
「はい!」
俺は急いで温泉から離れる。
3歳の頃、一度だけシロシロと一緒に入浴したことはあるのだが。
俺はその時、緊張の余り気絶した。
決してシロシロの裸に興味があるわけではなく、免疫がないのだ。
しばらく経ち、木々の間に掛けてある、秘湯と書かれた暖簾が捲られる。
シロシロはホワホワとした丸っこい湯気を放っていた。
「ふーぅ、それじゃ先に寝ますわ。さっきの覗き、ホントはマヴくん狙いかも知れませんわよ。気をつけてくださいまし」
「俺ですか? まあ、気を付けます」
そうか。
俺、というよりマヴはイケメンだからその可能性もあるな。
しかし、覗きなんて初めて見たしシロシロのあの台詞はこっちじゃ初めて聞いた。
街の人が追ってきてたのか?
鎧なんかで姿を隠しやがって、変態め……。
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