第17話 憑依蘇生術

「おおっ! 聖獣様とそのお弟子さんですか! 歓迎しますぞ、ようこそ! 旧ミソハム村へ!」

「出迎えご苦労でございますわ」

「聖獣様、どうかこの街に名前を付けてくださいませんか?」


 俺とシロシロが街へ入ると、村長らしき人物と住民数名が出迎える。

 暗殺組織のメンバーや父と母、妹がこの街に流れ住んでるとかシロシロは言ってたけど、何か吹聴してあるのだろうか。


 街中を歩き、街の中心へと入ると見慣れないブロンズ像が建っていた。

 ……シロシロによく似ている。

 その近くに座っている人々の中から、父が立ち上がった。


「パパ! 久しぶり!」

「おお、マヴじゃないか。12年間、頑張ったようだな」

「そりゃもう」


 数日の付き合いだった父だが、いざ会ってみると自然と笑顔になってしまうものなんだな。


「シロシロ様、お待ちしておりました。既に身体の不自由な者と憑代を集めてあります」

「さすがですわね。マヴくん、ささっと済ませてまた魔を狩りますわよ」


 ……いやいや、ここに座ってる人全員だとすると多過ぎないか?


「みなさん、並んでください。順番に体を入れ替えてゆきますからね」


 よく見ると、人々は座っているのではなく足や腕のない人が多い。

 この人たちは避難民で、戦争で体の一部を失ったのか?

 ……死んだ人も大勢いるんだろうな。

 俺があんなこと言い出したせいで。


 ふと父の方を見ると、台車の上に小さな動物の人形が山積みとなっていた。

 ……そりゃ人間大の人形なんてないか。

 しかし、人形の体の方が元の体より不便じゃないか?


「あの、皆さん。人形の体で動けるようになれたらいいんです……よね?」

「ええ。早く移し替えてください」

「本当にいいんですか? あんな小さな人形になってしまったら、色々と不便かと思いますよ」


 つらそうな顔をしていた人々の顔が、急に明るくなる。

 何だ? 不気味だぞ。


「食事を摂らずともよく、目がなくとも見える。瞬きせずとも瞬きできる。手足の動きも自在なのですよね? 金を払ってでもなりたいという人もいる中、体の不自由な我々だけがそうなれるのは至極の幸運にございます」


 そういう考え方もある……のか?

 シロシロの方を見ると、呆れた様子で人々を眺めていた。


「そこまで検証してはいませんわ。妄想が勝手に膨らんでいったようですわね」


 気が重いわ。

 もし妄想通りにならなかったら俺、恨まれる気がするんだけど?


「……じゃあ、1人目は誰にしますか? 言っておきますが、あなた方の考え通りの肉体が得られるとは限りませんよ」


 人々が父の誘導に従い、並び始める。

 先頭は父よりもガタイのいい男だった。

 隻腕で、少し機嫌が悪そうな顔だ。


「では、先に憑代を選んで下さい」

「……ああ」


 男は台車からイヌのぬいぐるみを手に取る。

 ハスキーとかのカッコいい系というよりは、意外にも垂れ耳の可愛い系だ。

 犬種はキャバリアだと思う。

 

 まあ、人の趣味についてとやかく考えるのはよそう。


「では」


 俺は腰にチェーンで巻き付けていた棍棒を握り締めて振りかぶり、男の頭を真上から殴り付けた。

 打撃音と、ミシリと骨を割る音が小さく響き、男は地面に叩きつけられた。


 男の指の痙攣が治ってすぐ、その体にナイフを突き刺す。

 ……よく嫌な感触と聞くものだが、ふむ。

 感触を確かめている暇はない。

 ナイフを引き抜き、憑代を広いその腹に突き刺す。

 すると、憑代が薄黄色く輝き始めた。


「……お。こんな感じか」


 輝きが収まり、犬の人形は俺の手元から飛び降りると、トテトテとブロンズ像前へと戻っていった。

 呪いの方が解消できたか確かめる術はないが、憑依自体は上手くいってるな。


 人形は戻る途中、元の体の前で立ち止まる。


「今までありがとな、オラの体。さて、ジオラマ街で待ってるぜ皆」


 ジオラマ? そうか、小さくなった時用に棲家を用意していたのか。

 存外エンジョイしようとしてるというか、ちょっとロマンあるな。


 シロシロが死体の手を掴み、フン! と掛け声を叫ぶと死体は爆散して跡形もなく消えた。


「マヴくん、ドンドンいきますわよ。今日中に全員分終わらせますわ」


 それより先に誕生日を迎えて、呪いの効果で幻聴や幻覚というのに襲われるかを確認したいけど。


 ブロンズ像周りの人々は目を輝かせ、こちらを見ている。

 どうも、こちらの事情では帰りづらい雰囲気だ……。

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