マヴくん青年期篇

第16話 12年後

 ◇ ◆ ◇


 ——あれから12年後。


 俺は腐敗した森の中で、巨大な深緑の豚耳巨人と戦っていた。

 俺の棍棒とヤツの巨大棍棒が幾度となく交わり、火花を散らす。

 そして力を込めた一撃がヤツの棍棒を叩き割り、怯んだ隙に顔へ一撃を叩き込む。

 豚耳巨人は吹き飛んで木に叩きつけられ、動かなくなった。

 木が軽い地鳴りを起こしながら倒れる。


「随分と戦えるようになりましたわね。オークより少し強いくらいでしょうか」


 シロシロは12年前とあまり変わらない見た目だ。

 そして昔のシロシロよりも、俺は弱い。

 さっきの魔なんて、シロシロなら一撃で爆散させていただろう。


「どうすればもっと強くなれる?」

「これ以上は人間には無理ですわね。ただ人間としては、トップクラスに強くなったと保証しますわ」


 そう。

 頑張った、12年間すごく頑張った。

 俺はイケメン細マッチョ好青年へと立派に成長した。


 これならシナリオ主人公と戦っても負けることはないだろう。

 ただしプレイキャラやボス敵を倒せるという気はまるでしない。


 シロシロはあれから、暗殺組織を解散させ俺を育ててくれた。

 主に拳法を教えてくれたのだが、俺には修得できなかったのだ。

 これが意味のある12年間だったのかというと……この世界の非情さが垣間見えた気はする。

 

 あと、ひとつ分かったことがある。

 暗殺組織の活動が止まってから、ゲームとは違う展開になった。


 世界中で人間同士の戦争が起き始めたのだ。

 平和な街は、ここの近くと遠くにある孤島だけらしい。

 結果的に、シロシロたちの暗殺業は犠牲者を減らしていたということだ。


 これからは戦争の中心人物だとかを人形に移し変える、そんな日々を過ごすことになるのだろう。

 ……魔道具で呪いをやり過ごせれば、の話だが。


「アナタとはもう12年の付き合いになるんですわよね」

「はい」


 俺が歯を見せて笑うと、シロシロは顔を青白くした。

 仕草が気持ち悪かったのかな。


「アナタもワタクシもよく頑張りましたわ。でもマヴくんの呪いは、まだ解けていませんの。もしそれで死んでしまったら、今までの月日は全部無駄ですわよ」

「ああ、つまり万が一の時は魔法具とか気にせず暗殺対象を殺せということですか?」

「違いますわ。人間と戦うなんて、普段そうそうある機会ではありませんの。……暗殺しようにも対象を見つけられていませんのよ」


 ……そういや特には決めてなかった。

 でも俺は無差別殺人を起こすつもりだった訳じゃない、何だかんだシロシロなら暗殺相手をすぐに見つけられるような気がしていたのだ。

 それに今は今で、倒さなければならないような人間はいくらでもいるだろう。

 

「今は戦争起きてるし。起こした人や要人を狙えばいいんじゃ」

「お互いもう死んでますわ。死んでて戦争が止まっていないんですの」

「じゃあ戦地へ赴いて、兵士を人形に変えていくというのは」

「敵が多過ぎますの。大量の憑代を抱えて動けるほどの余裕はないと思いますわよ」

「え、じゃあどうしろと」

「相手を選ぶほどの余裕はないということですわ」

「……どうしてもっと早く言ってくれなかったんですか」

「何度も言いましたわよ? でも、まだ人を殺める自信がないと言っていましたわよね」


 そうだった。

 そろそろ11年経ちますわ、準備しないと……とかシロシロ言ってたわ。

 無計画な俺が悪いね?


「……この辺りの街や村が平和なのは、魔をほとんど狩尽くしていて手出しできないからだとすると、戦争には魔が絡んでいるのは間違いありませんわ。本当の敵は人間ではなく、魔である可能性が高いんですの」

「それじゃ、本当は無害な人を殺すしかないってことです?」

「……そうですわね。そこで、これはアナタの両親の提案なのですが。体の不自由な方を憑代に移すというのをやればいいのではないかと。ただ、ワタクシの主義には反しますわね。そんな善意の押し付けより、魔を討ち滅ぼすべきですの。とりあえず街へ向かいますわよ」


 おお……父と母にはホント感謝だ。

 それにようやく森から出られる訳か。

 街なんてゲーム以来だぜ。

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