第14話 行けるだけマシ?
両親に連れられてきたそこは、暗殺組織のアジトというには自然豊かな場所だった。
というか森だ。
透き通った色の草が生えており、何とも神妙な雰囲気が出ている。
「ボスー。出てきてください」
「何ですの?」
出てきたのは見覚えのある、真っ白な毛をした獣人だった。
鹿っぽいような狐っぽいようなコイツは、メインシナリオ最終チャプターの途中で出てくるボス敵だ。
ゲーム内のエンドコンテンツ周回ダンジョンのボスでもある。
何度倒したことか。
名前はシロシロという。
実装当初は企画が一部白紙のままだったのでは? などと言われていたものの、外見の造り込みからニッチなファンが多い。
シロシロは俺を見ると、一瞬だけ毛を逆立てた。
「何だか悪寒がしますわね。あなた方の子供ですの?」
隣から「ええ、作った子供ではありませんが」と返ってくる。
「ボス、どうか我が子、マヴの話を聞いてやってくれやしませんか?」
「構いませんけど、そんな小さい子供と
シロシロは地べたに正座して目を瞑った。
ゲーム内でのこの人は、森を焼かれて居場所を失い、チャプター最終ボスに挑み敗北。
宿命宿ス呪ともう一つ、命令なんでも聞きますって感じの呪いを刻まれて、最終ボスの護衛としてプレイヤーに立ちはだかる。
といった感じだったと思う。
まさか暗殺組織のボスだったとは知らなかったが。
ちなみにその後呪いは解かれ、自由の身となった彼女は首都を徘徊するようになり、プレイヤーと同じように露店を出したり何かのアイテムを生産したりする姿を見られるようになる。
正直、今戦えば攻撃力的に勝てはしないが、動きが分かってる分、負けもしない相手だ。
最悪、戦うことになっても何とかなるかも。
俺が深呼吸のために大きく息を吸うと、シロシロは眉をピクッとさせた。
「シロシロさん」
「ボスとお呼びくださいまし?」
「ボス、もう暗殺なんてやめてください。人殺しなんてしなくても、悪い人は裁けるはずです」
シロシロは目をゆっくりと開くと、残念そうに唸った。
「今回あなたのパパとママに頼んだ仕事は、武器密輸業者の暗殺ですの。彼らを始末しないと、もっと多くの命が失われてしまいますわ」
「警告などで済ませることはできませんか?」
「そんなこと、暗殺を警戒されるだけでしてよ。第一、暗殺対象は殺さないと止まらないんですの。悪人とはいえ、意志の強い方々でしてよ」
うむ。
暗殺対象はチャプター上の必然か、ラスボスが呪いで操ってるということだろう。
呪いを解けるようになるのは12年は先だし、今やれるのはやはり、俺が暗殺対象を始末して蘇生する。
それくらいだ、主人公たちと敵対しかねないけどシロシロの言い分はおおよそ正しい。
「でも、殺すなんてダメだよ。やるんなら他のやり方でやってよ」
「他のやり方とは何ですの? あったらやってますわよ」
父と母の方を見ると、目を合わせて頷いている。
正直、シロシロを倒せば一回で済むと思ってた問題だけど……仕方ないっ。
「他のやり方ならあります。これ、魔法使いの人から貰った魔法具です」
持って来ていたナイフを見せると、シロシロは蔑むような目を俺に向けた。
「魔法具を貰った? 魔法使いとワタクシたちは似たような目的で動いていますが、協力を得ているなんて疑わしいですわ」
「これは、刺した相手を蘇生するナイフです。死んですぐの身体を刺した後に憑代となるもの、ぬいぐるみとか? を刺すと蘇生できます」
確かベクーラガルルは、一度試した時にぬいぐるみ刺したって言ってたような。
シロシロは手のひらを向けてきた。
「それが本当なら、かなり危険な道具に思えますわね。とりあえず預からせて頂きますわ。魔を使っていくつか検証してから、マヴくんのお願いにお返事させて頂きます。カップルのお二人は憑代になりそうなものをワタクシに届けてくださいませ。しばらくはそれをアナタ方の仕事としますわね」
「「分かりましたボス」」
父と母は声を重ねて返事をした。
しかし、又貸しって凄く気が引けるな。
もしべクーラガルルが俺たちと仲直りしてくれた時に、渡した魔法具どこ? ってなったら、さらに関係悪くなりそうだし。
渡していいものか……。
「ほら、どうしましたの? その魔法具をワタクシに渡しなさい」
「又貸しイヤなんです。その、検証は俺がするので持ったままでいさせてください」
シロシロの鼻にシワが寄った。
動物が臭いを嗅ぎ分ける時にやる、フレーメン反応に似ている。
誰かオナラでもしたのか?
「では、マヴくんのことはこちらで預かるという形にしますわね。申し訳ないけどこれ以上の譲歩は無理ですわよ。脱退する場合は変わらず、親族全員を暗殺対象としますからね!」
何だか、脱退したら殺すというのが疑わしくなる言い方だけど……まあいいか。
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