第13話 家族会議

「ただいま。どしたママ? 元気ないみたいだが」

「ええ。ガラが家出しちゃって……」

「家出? 外で遊んでる様子だったぞ」


 母の曇った顔は俺とガラを見つけて一瞬晴れるも、次には困惑する様子へと変わっていた。


「ごめんなさい、私の勘違いだったのかも」

「そうか。まー、こんな森の中じゃ退屈だろうしな。そろそろ引っ越そうかね」


 母が黙り込み、父は首を傾げる。


「なんだ?」


 どうやら、俺とガラが話を切り出すタイミングを作ってくれているようだが。

 話してしまえば殺されるというピリついた緊張が解け切らない。

 でもガラを家出から引き留めた以上、逃げるわけには。


「家出で合ってるよ。母さんから聞いたんだ、暗殺の仕事してるって。……人殺しなんてやめてほしいけど、簡単にはやめられないってことも聞いた。だから、暗殺グループのトップがいるところへ行って、やめさせてもらえるよう頼みに行きたいんだ」

「ホントか? ママ」


 母は父へと頷き、こちらに背を向ける。

 ど……どうだ? 俺渾身の発言だぞ。


「ボスのところへ行きたいというのは、私も今初めて知りました」

「呪いのことは話したのか?」

「いえ、話が分かるようになってきたと言っても……まだまだ小さいですから」


 父は母の隣へ行って、イヌとか歯磨きとか刺身とか、単語で話し始める。

 暗号で話しているようだ。


「ふう、やはり単語で話すと落ち着くな」

「そうですね」


 違った……両親の方も緊張していたらしい。


「とりあえず飯にするか。食べながら話そう」




 そうして食卓の用意が済み、家族でテーブルを囲む。

 普段通り、という感じで振る舞う父と母。

 その向かいに座る俺とガラは食事を終え、ただただ机の上を眺めていた。


「さて、マヴ。ガラ。これから大事な話をする。パパとママはな、とある組織に所属していて、頼まれた仕事をこなしお金を貰ってる。そこから抜けることはできない」


 父が静かに話し始める。

 

「2人のことは、その仕事をやってるうちに拾ったんだ。マヴは、とあるモンスター研究施設を破壊しに行った時に拾った研究員の子でな。べクーラガルルという人が、マヴは産まれながらに呪いを授かっていると説明してくれた」


 ん……そういえばそんな設定をゲーム内で釣れる本か何かで見たような。

 呪いについては夢で見て知ったとか、そんなだと勝手に思っていたが違うな。

 ……今後のため、ネットで調べ直したい。

 まあ、もし元の世界へ帰れてネトゲしてもシナリオあまり興味ないし、わざわざこっちへ戻るなんてことする気ないし、調べないと思う。

 ……あれ、俺って割とクズかもしれん。


「……という条件らしい。パパとママの仕事上、都合が良い環境だろうということで我が子として育てている訳だ」

「アタシは……?」

「仕事中、森の中で産み捨てられていたのを拾った。暗殺対象の子とも思ったが、へその緒を切った血の痕の先でガラの母親らしき人が息絶えているのを見つけた」


 ガラは俯いたまま首を横に振る。


「何で、命をうばう仕事してるのに拾ったの? 放っておけばアタシ、こんなきもちにならなかったのに」

「そういう組織ではないんだ。パパとママは、今の平和な世の中を守るために仕事している」

「よく分かんないよ。ママ、一緒に寝て」


 少し戸惑いながらも、いいの? と返事する母にガラは頷く。

 二人はまず歯磨きね、と洗面台へと向かった。


「よかった、てっきり俺とガラは始末される流れかと」


 やべっ、つい思ってたこと口に出してしまった。


「そんな軽い気持ちで拾ってはいないさ。それと遅くなったが返事だ。ボスと会いたいのなら会わせてやる。納得はできないだろうが、それで我慢してくれ」


 マジ!? いや、話しても何とかならなそうに聞こえるし。

 こういう緊張感をまた味合わされるの、すげー嫌なんだけどなあ……。

 行けるだけマシかあ……。

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