第11話 魔法使いと妹
詰んでる。
依頼を断って逃亡生活……なんて息苦しいだろうし、無駄に足掻かず史実通りになるのを待つのが最も楽なんじゃ。
いやでも、解決策はあるか。
絶望に悶えながら森の中を歩いていると、ガラの大きな泣き声が聞こえてきた。
そこへ向かうと、ガラの頭の上にリスが座ってるのが見える。
「このリス変だよお゛お゛お゛っ」
「失礼だな。君が迷子になると家族が心配するだろう、家へ戻りなさい」
「やだあ゛あ゛あ゛」
リス、じゃなくてべクーラガルルは俺に気付くと、ガラの頭から飛び降りて本来の姿へと戻る。
ガラが俺の方へと隠れて、服を掴んできた。
リスが怖いらしい。
ガラは実にかわいい。
「……まあ自己紹介くらいはしておこう。オレはべクーラガルル。君らの幻想である魔法を使える」
威張るように胸を張るべクーラガルルを見て警戒が解けたのか、ガラが俺の後ろから出てくる。
「まほー……? だっさ❤︎ そんなの使えるなんて言って人間になっても、リスさんの遊びには付き合ってあげないよ❤︎」
「……遊びで使っている訳ではないのだが。とにかく家へと帰りなさい」
「アタシたちは家出のさいちゅうなの❤︎ これから生きていくためのけいかくをねらなくちゃいけないから、じじょーを知らないリス人間さんは森へとお帰りなさい❤︎ いこ、お兄ちゃん❤︎」
呆然と立ち尽くすべクーラガルルの脇をガラは通った。
待て、とべクーラガルルは声を上げる。
「オレはリス人間ではない。魔法使いだ」
「えー? リスさんどんぐり臭いよ❤︎」
「家出と言ったか? 君の両親は暗殺を生業としているようだが、そんなことに嫌気が刺したくらいで育ててくれた人たちから離れるのか?」
「あれれー? アタシたちのこと森から覗き見してたのお? きっしょ❤︎ 弱小けだものリス人間さんは、他人の心配よりまず自分の心配しなよー❤︎」
べクーラガルルは顔を赤くして泣き始めた。
意外、それに心が痛む。
この人は割と年相応らしい。
「オレは君たちの為を思って……」
「うっわ、なっさけなーい❤︎ リスのお姉ちゃん、図星で泣いてる❤︎ 分かったらもうアタシたちに構わないでね❤︎」
つーか、アタシ"たち''?
それ、変に誤解を与えそうで怖いんだが。
べクーラガルルに近づこうとすると、ガラが俺の腕を掴んで引っ張ってくる。
「やめろガラ、まだ両親との話は終わってないんだ。なのに家出する気なのか? いいのか? このまま永遠、パパとママに会えなくなったとしても」
「え? 話してもダメだったんだし、家出しちゃおうよ❤︎」
「穏便に止められるかもしれないのは俺たちだけなのに、それを放って逃げてもいいのか……? もっとたくさんの人が殺されるかもしれないんだぞ!」
ははは、止めるのは多分無理なんだけどな。
俺の言葉にガラは立ち止まった。
「じゃあ、またダメだったらお兄ちゃんはどうするの?」
「考えがあるんだ。べクーラガルルも協力してよ」
まだ泣いていたべクーラガルルは、首を横に振る。
「……オレはもう君たちのことなんて知らないっ、君たち自身の力でなんとかしろっ」
そう言いべクーラガルルは消えてしまった。
間違いなく、消えていったのだ。
彼女の協力さえあれば楽に解決できると思ってたのに、これはまずい——。
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