第10話 倫理観
2人でむせ返りながら、土を戻し終える。
もう夕方が近い。
「これって、元々ここに住んでた人じゃないかな? 多分他にも2人分……」
「じゃあ、じゃあ誰がここに埋めたの?」
「パパとママだとしか考えられないよ」
ガラは目元に涙を滲ませ始める。
「それじゃあ、パパとママは人殺しってことお? だから町にお出掛けしないの?」
「……直接聞いてみよう。きっと、理由があるんだよ」
何だか複雑な気分だ、この山小屋に住んでた人を殺して埋めていたんだろうけど、あの両親が理由もなくそんなことするようには思えない。
きっと、埋められた人たちは全員悪人で。
悪人の暗殺ついでに棲家を奪ったのだ。
「……うん。パパとママが人殺しなんて、そんなことするはずないよね」
「でも、悪人だったなら別にいいんじゃないかな」
ガラは、ええ? と声を上げる。
その目は震えていた。
「どうしてそんなこと言えるの?」
「いや、だって。もしこの埋まってた人たちが犯罪者なら、死んでくれた方が世の中にとっていいような」
「意味分かんない。死んでもいい人なんて1人もいるわけないじゃん」
親をフォローしたつもりなんだが、失敗した。
ゲーム内のチャプター2では全ての語尾に黒いハートマークを付け、呪いの説明後には「いいのいいの❤︎ お兄ちゃんは呪いでどのみちいなくなるザコザコ暗殺者だったから❤︎」とプレイヤーに軽い感じで言っていたが、実は違ったのだろうか。
12年以上先のことだし、なんとも言えないが。
「悪かった、ガラの言う通りだよ」
「……もしパパとママのしわざだったなら、アタシは家出する。お兄ちゃんはどうするの?」
「やめるよう説得してみる。ガラも手伝ってよ、殺された人は生き返らないけどさ」
ガラは、頭を下に向けたまま頷く。
家に戻ると、母がナイフを持ち野菜を切っていた。
……今訊ねてしまえば、俺とガラにナイフが向けられてしまうかも。
「ママ、ただいま」
「お帰りなさい♡」
振り向いた母はナイフをまな板の上に置き、笑顔のまま少し屈んでガラと俺を迎えた。
さすがにそんな心配いらなかったか。
家族だしなあ。
「外で穴掘りして、宝探ししてたらね。人の骨があったんだけど。ママ、この家ってその人たちのじゃないよね? アタシたち、人殺しなんてしてないよね?」
ガラが少し戸惑いながらも、母に訊ねる。
母はナイフを手に取ると、真剣な面持ちでそれを眺め始めた。
「そうね。まだまだ早いと思ってたけど、ガラは賢いわね。そうよ、ここに住んでた人たちは私が殺した」
「う、うそお」
「ほんとうよ。他にも殺してきたわ。いろんな町外れの森にある家は私たちが任務遂行のために与えられたものなの。それらを転々としながらお仕事してて……暗殺っていうお仕事なんだけど」
何だか怪しい雰囲気になってしまった。
ガラは目に涙を浮かべている。
「そうね。ガラちゃんとマヴくんが見つけたのは、勝手に住みついた人を殺して埋めたものなの」
「パパとママが人殺しなんてやだあ、アタシ家出するゔゔお❤︎」
「ダメよ、1人じゃ危ないわ♡」
走り出すガラの腕を母がナイフ片手に掴む。
「ごめんね、秘密にしてて。まだ話しても、よく分からないと思ったのよ」
「やだ、離してよお゛!」
暴れるガラに手を振り解かれた母は、走っていくガラを立ち尽くして眺めていた。
「ああ……。マヴくん、ガラちゃんを連れ戻してくれるかしら? 私が行っても逃げてしまうだろうし」
「分かりました」
「ごめんね、マヴにも今まで隠しちゃってて」
いやいや、二歳児や三歳児に言っても普通は伝わらないだろう。
……って、何分かりましたとか言ってんだ俺。
強引にでも交換条件出さなきゃ暗殺業をやめさせられないんだつーの!
「あの、連れ戻せたら暗殺業を辞めてはくれませんか? ガラ、嫌がるだろうし」
「それは無理なの。報酬のこともあるけど、辞めたいなんて言えば……私たち家族全員、組織のトップから始末されるわ」
え……? マジかよ。
てっきり依頼形式かと思ってたのに。
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