第9話 墓掘り
ガラの部屋❤︎と書かれたドアを開けて入ると、ピンクと白の色調で飾られた子供らしい場所だった。
俺の部屋は何もないのに、ここには玩具箱やら宙吊りの星のモービルなどがある。
なんだこの、俺の部屋との落差は。
そして床の上にガラがぺたんと座っており、動物のぬいぐるみを両手に握って遊んでいた。
「お゛っ、しょい、しょ〜い」
「しきかん。てきせいそんざいを確認しました。今すぐこうげきしますか?」
「おほー❤︎ やっちゃえ❤︎ アタシたちはむてきのかくとう部隊なんだから❤︎ 倒したらざこざこ動物の服をはいで、アナタたちが着る服にするわよ❤︎」
「りょうかい! エンカウンター!」
親が暗殺をしてることをガラに直接伝えても、呪いは発動しない。
しかし親にそのまま伝えれば、昨日失敗した時と同じ流れになるだろう。
親はきっと、暗殺をしてるというのは誰かから聞いて得た情報だと真っ先に疑うはず。
それをどうにか自力で気付いたのだと思わせ、あとは人殺しなんてやめてと二人で泣きながら懇願すれば、きっと上手くいく……はず。
そこまでの流れをどうにか作るのが目標だ。
1人でも実行できることではある。
ただ、俺は話術というものに全く自信がない。
ガラは確か、ゲーム内ではマヴが死んだことにあまり関心はない様子だった。
呪いについて知ってはいたが、暗殺のことは知らなかったはず。
両親もマヴも、暗殺の後ろめたさから伝えていなかったのだろう。
ガラの協力があれば、きっと両親も仕事を辞めざるを得なくなるはずだ。
「しきかん、てきせいそんざいを撃滅しました」
「やったやった❤︎ さっそく服を奪い取るわよ❤︎」
ガラは動物の服を脱がせ始めている。
「や、やめろお! この服はちょう高級ブランドで、わたしの全財産がかかっているんだ!」
「えっ、すごーい❤︎ すごいからやめな〜い❤︎ ぐへへへへ❤︎」
「うわあああ!」
どうやら夢中になって遊んでいるようだ。
内容には……触れてはいけない気がするものの、このまま声を掛けないわけにもいかない。
「ガラ、にいちゃんと遊ばないか?」
声を掛けるとバッと振り向き、ガラは顔を真っ赤にした。
「で……」
「で?」
「出てけえザコにいちゃん!!!」
俺はその悲鳴にも似た叫び声に、慌てて部屋を出た。
そりゃそうか、コテコテのキャラな上2歳児とはいえ、相手は俺と同じく生身の人間だ。
……失礼なことをしてしまったな。
母がリビングの卓上から、編み物をしつつ微笑んでいる。
父はというと大カゴを背負って、森へ採集しに出掛けていた。
さすがにその片手間で暗殺はしないだろう。
この隙に妹と仲良くするのだ。
妹の部屋の扉が開く。
ドアの隙間からは少し落ち込んだ様子のガラが見える。
「次からはノックしてから入って……。それで、何の用?」
「ごめんな。ガラ、一緒に遊んでくれないか?」
「おそと?」
「うん」
「それじゃ、着替えてくるね……」
暗い。
2歳児がこんな暗い顔するもんなのか?
部屋に入っただけでこんなにも傷付けてしまうとは、俺は何と無能な兄なのだ。
それからしばらく待つ。
部屋から出てきたのは、白いシャツにオレンジ色のオーバーオールを身につけた、普段のニヤケ顔をしたガラであった。
服の技術は一部、ゲーム内ガチャ基準らしい。
「1人じゃ遊べないなんて、お兄ちゃんなっさけな〜い❤︎ ……それじゃ、行こっか❤︎」
ガラは先に家から出ていく。
風に吹き飛ばされたりはしないだろうかと思ったが、今はそれほど強い風もなく、木々の間からところどころに木漏れ日が差し込んでいた。
表情のせいもあり、ガラが俺を森へ誘う白い小狐のように見える。
「今日は何して遊ぶの?」
「お喋りしよう」
「いいよ❤︎ おしゃべり❤︎」
俺とガラは家の前に座り込む。
ガラは俺の顔を覗き込んできている。
……なんか急に頭が真っ白になったわ。
両親の仕事について、話すだけなのに。
「ガラおにーちゃん、アタシらきょーだいでこうして話すのって初めてだね」
「そうだね」
知らんけど、実際初めてではあるな。
ガラは木漏れ日の方を向いて、それをぼんやりとした顔で眺め始めた。
「お兄ちゃん、知ってる? この家に来た時、悲鳴が聞こえたの」
「知らない」
「そっかー。あれ、何だったんだろうってずっと気になってるの。もしかして、ほんとはこの家パパとママのじゃなくて、誰か住んでたのかもって。だって、ぬいぐるみはお兄ちゃんが買ってきたことないし……。住んでた人に返さなくていいのかな?」
これはチャンス……! でも焦っちゃダメだ、部屋のこと、そして仕事のことを話すんだ。
「俺の部屋にはベッド以外何もないし、そうかもね。パパとママ、仕事は何してるんだろう」
「しごと? それよりお兄ちゃん、ちょっと来て」
森の中へと進むガラについて行く。
すると、土を掘り返した痕が3個ほどあった。
何だこれ?
「ここ、何か埋めてあるみたいなの」
「お宝とかじゃないかな?」
ガラは目をキラキラさせる。
その両手には、小さな石製のシャベルがあった。
「じゃあ今日は、お宝探ししよーよ!」
「いいよ」
いいけど、モロに仕事の話を流されたような。
まだ時間あるし、少し空けてから同じ話振るか……。
土の柔らかい部分をどんどん掘って行くと、嫌なにおいがしてくる。
それは喉まできて、胃酸のような辛いものが込み上げてきた。
ガラもそれに耐えているようで、苦い顔をしてる。
「やなにお〜い❤︎ お宝埋まってるのかな? 宝石とかってこんなにくっさいところにあるから、高いのかなあ?」
「そうかもね」
土には何か黄色い変なものが混じってるような。
まあいいかと掘り続けていたら、何か固くて黄身がかった白いものに当たる。
……人骨だ。
ガラはそれを見て、青ざめていた。
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