第8話 もう一個追加の呪い

「ふむ。つまりは宿命宿ス呪の二つ目の効果を詳しく知りたいということか」

「そうです」


 鳥たちがさえずっている森の中で、切り株の上にいるリスは、膨らんだ頬へと手を当てて悩んでいた。



「その前に、額のそれは何だ?」

「これは気絶した時、玄関のドアに頭をぶつけましたっ」


 額の腫れは一晩どころか薬を塗る前にひいていたが、念のためと塗られ綿をくっつけられた。

 この世界。

 ゲーム内の世界観としてはかなり昔な感じだけど、医療技術高いっぽいし痛風って言葉もある辺り、ところどころ現代寄りっぽい。

 

「……それで呪いの効果が気になったと」

「ええ」

「昨日から薄々思っていたが、妙に受け答えがいいな。3歳になったばかりだとはまるで思えん」


 んなこと言われても。

 ベクーラガルルの方はこの頃何歳だったか、相当若いはずなんだが。

 と、そんなことを考えてる場合じゃないな。

 呪いのことをしっかりと聞かなくては。


「まあいい。オレが魔法で模擬実験シミュレーションした結果だと、行動が適していなくても起こる。呪いを認知した上で、これなら何とかできる、と思い自ら行動すると戻され気絶する。呪いに関係していないものでもな。記憶を消せば起こらないはすだが、やるか?」

「やりませんよ。でもそれなら、何で俺はナイフを預かれたんです?」

「準備は含まれない。ただ、肝心なところでは自力じゃどうにもならないということだ」


 そうか……。

 つまり俺の希望は、白昼夢となり消え去るのだ。

 完膚なきまでに……。


 恐らく、発言も行動に含まれるのだろう。

 ただ準備してもいいのはデカいな。

 そして肝心なとこだけベクーラガルルに頼めば、問題なく呪いをかわせそうな気がする。


 しかし引き受けてくれるものだろうか。

 そもそも、準備しても無駄というニュアンスでベクーラガルルは言っているようだし、もう少し話を聞かなくては。

 

 チラリとリスを見上げると、リスは切り株に座りその小さな手の甲へと顎を乗せ、こちらを眺めていた。


「今の説明で納得したか?」

「ええ。つまり肝心なところは、他人の力が必要になるということですね」

「それはそうだが、準備は含まれないというところだ」

「そこはまあ。今こうして話してるのも準備ですよね?」


 リスは黙り始めた。


「……違いました?」

「合ってる」


 何だか歯切れの悪い返事だな。

 ベクーラガルルも俺と同じで、会話あまり得意ではないのだろうか?


「ところで君が額に傷を作った原因は何だ? なぜ呪いが発動した」

「父に未来が分かると言ったからで……」


 ギシギシとまた、軋む音が聞こえ始める。

 準備なら、こうして話してる時なら発動しないはずなんじゃ……。




 起きると、切り株の前だった。

 リスがその上で寝転がっている。


「……どうやら、オレと話してる最中に呪いが発動したようだな。原因は言わなくていい」


 何でだ……。

 準備なら呪いは発動しないはずなのに。


「それで、要件は?」

「呪いの二つ目の効果を詳しく聞きにきました、まあ、もう詳しく聞いたのでいいです」


 リスは切り株の上を指でなぞり始める。

 年輪でもなぞってるのだろうか。


「そうされると、話が早いようで遅くなるな。君はオレの協力を得なければ呪いに対処できない。まあ……何となく察しはつく。君の額に傷がある理由をオレが聞き、君は答えたのだろう」

「ええ」

「そこで呪いへの対処、その準備のつもりで答えた。しかし呪いが発動したということは、呪いへ君自身が直接対処する他にも発動条件があるということだ。オレが模擬実験で把握できていなかった以上、君自身で条件を探る他ない」


 発動条件なら、何となく理解している。

 俺が転生者であることを誰かに仄めかすと発動する、これで間違いないだろう。

 

「しかし、自分が情けないよ。君を助けるつもりでいたのに、まだまだ不充分な状態だったからこんなことが起こる。……頼りないところを見せてしまったな」

「そんなことありませんよ。すごく感謝してます、ありがたいです」


 リスは再び黙る。

 それでさっき返事を渋っていたという訳かもしれない。

 俺からすれば初っ端で出会えていることが凄まじい幸運なんだ。

 どこも情けなくはない、存在自体が俺にとっては希望だぞ。


 ……感謝してる理由を明確にすると、また呪いが発動しそうで……はっきり励ませないの悔しいな。


「悪い、オレが落ち込んでいては仕方ないな。それで君は、この呪いにどう立ち向かっていくつもりなんだ? ……呪い発動のきっかけになる質問だと感じたら、答えなくていい」


 どうって、思いつきはしているのだが。

 俺が黙ってると、ベクーラガルルは切り株に座ったまま本来の姿へと戻る。

 何かしらの魔法を使う気なのか?


 俺が固唾を飲む最中に、ベクーラガルルは立ち上がった。

 当然、俺は咽せる。


「どうした?」

「急に立つから」

「……すまない。呪い発動の条件には、君の準備を見ればそのうちオレにも気付けるだろう。そろそろ他の子の様子を見てくる」


 ベクーラガルルが指を鳴らすと、一瞬で姿が見えなくなる。

 他の子……そうだ、俺以外にも呪われてる子がいるんだった。


 チャプター上の役割だから仕方ないけど、大変だろうな。

 あまり手を煩わせたくはないものだ。


 と、俺は親の仕事を妨害しなくては。

 一晩中考えた末、決めたことがある。

 妹ガラと俺から親へ、暗殺業をしないようにと伝えるのだ。

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