第5話 追加の呪い
足元には、割れた瓶から溢れた飴が散らばっている。
ベクーラガルルはそれを通りすがりに踏み砕き、荷物を持って先へと歩いていた。
「コレって、一体」
「呪いの二つ目の効果だ。君が死の宿命から逃れようとすると時間が少し巻き戻り、君はそこから少し先の時間まで気絶する。なんだ案外、君自身のことはあまり知らないようだな」
そうは言うが、ゲーム内にそんな設定なかったはず。
にしてもさっきの感覚は最悪だった。
いただきますと言った瞬間に、目の前の食べ物が全て消えたような感覚だ。
「三つ目の効果は幻覚と幻聴。これらは誕生日前の君を人殺しへと変えるだろう」
すぐに死ぬって訳じゃないけど。
……。
効果多いわ!
ベクーラガルルが振り向き様に、まったくの無表情を俺へと向けてきた。
「君がどういう状況に置かれているか、理解したようだな。さて、オレは君の記憶を消すこともできる。消してしまえば呪いのことを知らず、残りの12年を確実に、穏やかに過ごせるだろう。薬が間に合えばもっと長く生きられるかも知れない」
「記憶を消すって、どこまで」
「全てだ、部分的に消すことはできない。ただ、今回みたく翌朝には思い出すことがあるかもな」
ベクーラガルルは本当の姿へと戻る。
本当の姿でないと、彼女は魔法を使えないのだ。
記憶消す気満々らしい。
……それよりも翌朝ということは。
もしかすると、記憶を消されたから俺がこの体に入り込めたのかもしれん。
記憶を消せば俺自身が消えてなくなるのかも。
でもそうしたら現実に戻れるのか? こうしてる間にも刻一刻と現実では時間が過ぎているとしたら、戻るべきだろう。
ネトゲやりたいし。
しかし、そうだとしてもマヴがどうなってしまうか気がかりだ。
ゲームではフィクションだからと悲劇を受け入れてきたけど、この現実とそう変わりない世界に、こんな呪いが存在したままでいいはずがない。
今のこれは、俺とはまるで関係のない人生かもしれない。
でもきっと、帰れたところで一生分の後悔が残るだろう。
「しかしだ、次にまた思い出すことはないだろう。今回こそ完全に消しておいてやる」
「待ってください! 消さないから!」
「おお、言葉には勢いがあるな。ただしオレは、いつでも君と会える訳ではない。後で苦しくなっても消してやれるとは限らないぞ」
ベクーラガルルは荷物を重たそうに持ち上げ、肩から吊り下げるように持ち替える。
「呪いを解かなくても、殺した相手を蘇生できれば。人を殺すことにはなっちゃうけど、呪いをないようなものにできるはずです」
ベクーラガルルは俺の意見を否定するかのように、唸り声を上げた。
「悪くないアイディアだが、それはダメだ。蘇生は確かに可能だが、蘇生後の人は死んだ時のショックや生き返りによる自分が自分ではないという感覚、自己喪失感に追い込まれることが殆どでな。最悪、相手を廃人にすることになる」
どうやら蘇生は可能らしい。
よくないことだとしても、今は他に抜け道は思いつかないし。
今のうちに頼んでおかないと。
「でも、もし魔法薬が間に合わなかった時の保険として相手を蘇生する魔法具を作って貰えれば。一先ず安心します」
「……そうだな。いや、自分が思い付けなくてつい否定しまった。君の呪いはどの道、皆で薄めることしかできないのだからな。蘇生の魔法具を持ってくるから待っていろ」
ベクーラガルルは荷物を置き、ワープと唱えて光に包まれて消える。
しかし不思議だ、ここまで話しても呪いが発動しないなんて。
もしかすると、俺が行動しなければ問題ないのか? なんか呪いの発動条件緩いような……。
ベクーラガルルが小さな赤いナイフを持って戻ってきた。
「これで死後間もない死体を突き、次に憑代となる体を突けばその憑代に魂が宿る」
「憑代ですか?」
「肉体でもそれを模したものでも、ナイフで刺せるなら何でもいい。そして蘇生した後に生きられるのはその人の寿命による。無論、憑代を転々とすることはできない」
ベクーラガルルはナイフを荷物の入った紙袋へと入れた。
「魔法薬が間に合わないので別の方法をと思いコレを作ったのだが。オレが呪われた子を殺してから憑代を刺しても、その子は呪い通りの日に幻覚と幻聴にうなされながら死んだ。しかし呪われた子が他人を刺せば……
重いわ!
肝心なとこは何とかできそうという安堵感からか、心の中で俺は平然とそう吐き捨てていた。
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