第4話 絶望の始まり

 先へと走るベクーラガルルについていく。


 ふと思ったが、変身中の彼女は裸。

 裸で森の中を走るなんて、相当な変態なのでは?


 ……いや、そんなことを真っ先に想像する俺の方が変態だ。


「マヴくん。君の病気を治す魔法薬の完成には、まだまだ時間がかかりそうだ」

「病気? 呪いではなく?」

「それにも気付いていたか。そうだ呪いだ、宿命宿ス呪という。君は15回目の誕生日に死ぬ。それを回避するために人を殺さなくてはならない」


 しまった、マヴとして知ってると不自然なことをつい口走ってしまった……!


 でもゲーム中で呪いを解く方法を握っているのは、ベクーラガルルだけ。


 他にもチャプター最後のボスを倒すという手段もありはするはずだが、ボスがいる場所へ行くだけでもプレイキャラに宿る力が必要なのだ。

 つまりボスには会うことすらできないので、唯一の解決策を持つベクーラガルルには、知ってることを全て話しておくべきかも知れない。

 そもそもゲーム同様かも分かってないしな。


「話せば後々、ショックを与えてしまうと考えたのだが。杞憂だったな」

「な、何か手伝えることはありませんか?」

「残念だが一つもない、でも大丈夫。12年のうちに間に合わせてみせる」


 ありがたいことではあるんだけど、ゲームの方ではマヴが初めて人を殺してから1カ月後に完成してたんだよな。

 しっかり詰んでるぜ。


 にしても、手伝えることはないと言われて逆に気分が晴々としてきた。

 人生というのは短過ぎず、長過ぎず。

 15年くらいが丁度いいのかもしれん。

 幸い、人を殺すかどうかの決定権は俺にある。

 殺さなければ、それでチャプター主人公と戦うことにはならない。

 15年間、気楽に過ごして穏便に終われる訳だ。


 ベクーラガルルは急に旅人装いの中年風男性へと変身し、俺から財布とメモを取り上げた。


「さて。いつも通り買ってきて家の近くまで運ぼう」

「ええ? それくらい、自分で出来ますよ〜」

「ダメだ、前にも言ったがこの町は小さい。店の主人はこの町の子供の顔、全て覚えているぞ。行けば君が暗殺者の子供だとバレて、あの山小屋にはいられなくなる可能性が高い。いつも通りここで待っていなさい。ほら、おやつをあげるから」


 しかし急に余裕そうになったな、とベクーラガルルは俺を見ながら飴玉の詰まった瓶を渡して、一人で先へと進んでしまった。

 待てとは言われたが退屈だろうし、どうせなら一緒に行くか〜。


「ベクーラガルルさん。俺も一緒に行きますよー。疑われても、2人で旅をしてると言えば誤魔化せるはずですし」

「今なんと言った?」


 立ち止まったベクーラガルルからは、凍りつくような雰囲気が漂っていた。


「あの、一緒に買い物したくて」

「そうではない。なぜオレの名前を知っている?」


 詰め寄ってくるベクーラガルルから後退りして距離を取るが……グエッ、ゆっくりと背に木が当たって変な声出た。


「君はオレのことをどこまで知っている」

「魔から追われてて、変身とワープを繰り返し世界各地を転々としてることと、各地にいる呪われた人たちを救うために魔法薬や魔法具の開発してることです」


 ゲーム内での彼女について喋ってしまったが、これはこれで信用を得られるのではなかろうか? これほどベクーラガルルについて知っているのは、この世界にそういないだろう。


「ほお。君は魔の手先なのか?」

「そんなわけ……」


 ベクーラガルルは難しそうな顔をした後に、再び走り出す。


「冗談だ。ついてきたければ来るといい」


 冗談、そう言ってはいるもののあんな顔を向けてきたのなら。

 内心では、俺が魔であるかどうかを疑っているのではなかろうか。


 そしてこれから町ではなく人気のないとこへと俺を連れていき、俺の存在を消し去るつもりなのかも……。


 少し遠くに町が見えてきた。


 すると、ギシギシと軋む妙な音が聞こえる。




 ——俺は、森の中でうつ伏せになっていた。




 起きると、ベクーラガルルの姿はない。


 え? 何だ? どういうことだこれ?


 俺はついていってたはずだ。

 ベクーラガルルの仕業か? 時間が進んでるのか? それとも似たような世界が大量に存在してて、その一つに飛ばされたとか? だとするとどうして。


 目の前へとベクーラガルルが来て、咳払いが聞こえる。


 思考の整理が追いつかないまま、を見上げた。


「言ったろ? 君に手伝えることは一つもないと」

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