第2話 最悪そうなる

 窓を開けようとするとドアがノックされて開き、グレー色をした長髪の女性が笑顔を向けてきた。


「マヴくんおはよー♡」


 女性はどこかで見たような感じの服装だ、まるでゲームのような。

 ゲーム……そうだゲームだ! まさかネトゲ世界の中に転生したとかか?


「マヴくん、朝ごはんできてるわよ♡」

「ごはん……」


 見知らぬ女性だが、あちらとしてはそうではないらしい。

 しかも俺の母親らしきこの女性、銀髪で相当可愛いぞおい。

 現実じゃねーなこりゃ!


 にしてもマヴって名前、どっかで……。


 考えながら、綺麗に磨かれた石床を眺めていると反射して顔が映る。


 うむ、銀髪の美少年だな。


 だがもし転生するならできれば美少女になりたかった、孤高の美少女となって世界を旅するのだ。


 毎朝の美容と健康を欠かさずに過ごし、他の人たちには一切の迷惑を与えず関わらず、一人この世界でサバイバルしながら自分を高めることを楽しむ。


 そして他の人たちは俺のことをかわいいとしか言わない。

 なんと健全な毎日か。


 まっ、見た目はいいし男でも悪くない。

 ワクワクしてきたぞ。

 

 しかしこのどこかで見覚えのある顔。


 そうだ、最近のアプデで一枚絵が更新された初期のキャラクター、マヴで間違いない。


 確か、暗殺稼業やってる両親を殺された恨みで主人公たちへの復讐を目論むのだが、失敗してチャプター1で主人公たちから殺されるボス敵だ。


 マヴというキャラは暗殺者として人殺しをしてきたが、性格は至って平凡であり、真の悪役を引き立てるためにいるような存在である。




 次のチャプターでマヴには妹がいると分かり、その妹からマヴは妙な呪いを生まれながらに受けていたと聞くことになる。


 確か、他人を殺し続けなければ15歳で死ぬとかいう呪いだ。

 この呪いをなくすことがチャプター内での主人公たちの目的になってくんだけど。


 ネトゲのチャプターが俺の未来だとすると……ヤバい。

 かなりヤバい。


 それより不安なのは、ネトゲはプレイヤーのいる分だけ同じチャプターが存在しており、この世界でもそうかもしれないということ。


 前にサービス開始何周年かで運営が出した統計では、チャプター1を最後まで遊んだプレイヤーは30万人ぐらい。


 最悪、俺は様々なプレイキャラクターから30万回以上殺されるのでは?

 ……殺されて目が覚めたら別のプレイキャラクターがいて、再び殺される。


 そうして殺される痛みが延々と繰り返される。


 そんなのが終わりなく続くとしたら。

 

 架空でなく現実になるのだとしたら。


 ……今日はもう寝て、気分だけでも整えるかな!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る