017 召喚時に付与される能力

 こう言っては何だが、三人の中でメイプルが一番人間らしい……と思う。

 博識と言えばいいのか、その言動に驚かされることも多いが、不器用で失敗したりするし、日々実験や研究を続けている努力家でもある。


 そういう意味では、サンディーは天才肌の人間ってところだろうか。

 とにかく多才で、ベッド拡張や手芸などはメイプルの発案らしいが、それを形にする実行力がある。家事にしても手際が良く、仕上がりも丁寧。お皿作りを見れば、器用というよりも上手いという印象が強い。

 そしてシアだが……


 人間離れしているという言葉があるが、シアの場合……こんな事を言ったら可哀想だが、本当に人間なのか疑わしい。

 他の二人はどれだけ凄いことをしようとも人間の範囲に収まっているし、道具だって買ったり借りたりして用意している。なのにシアは、一瞬で武装できるし、解除したりできるのだ。

 それに、あのパワーだ。

 普通の人──たとえば、筋骨隆々で経験豊富な狩人であるマーチンさんでも、一人で灰黒猪キングボアには立ち向かえないし、絶対に倒すのは不可能……とまでは言わないが、かなり厳しいだろう。

 それを、あの小さな身体で、一撃で倒してしまったのだ。


「それにしても、戦闘要員ならもっとこう……、強くて大きい姿にすれば良かったのに。なんでこんなに可愛い子にしたの?」

「いやだから、そりゃ、何か原因があるんだろうけど、俺が選んだわけじゃないから。でも、シアで良かったと思ってるよ」

「この妖精みたいな可憐な子が? ……あっ、もしかして、私と再会して、この愛らしい姿に心を奪われちゃった?」

「そうかもね。フィーリアを見て嬉しかったのは本当だし。それが心の奥に残ってたのかも」


 否定されると思っていたのだろう。全身を真っ赤にして黙ってしまった。

 シアの姿はともかく、あの異常な強さについては不思議だったので、そのことをフェルミンさんに聞いてみる。

 すると、例によってシアの全身をまさぐるように調べ始めた。


「うん、間違いなく人間ね~。あのチカラは、ギフトのおかげだよね~」

「ギフト?」


 聞き慣れない単語を聞き返すと、なぜかフェルミンさんも「う~ん、何だっけ?」と、首を傾げる。

 それを、風精霊フィーリア補足フォローする。


「召喚時に付与される能力、ギフテッドのことよ」

「そうそう、それそれ~」


 召与才能ギフテッドのことなら、学院で少し学んだ。

 召喚体が召喚される時、召喚者の望みに合った能力を、ひとつ授かるらしい。

 この「ひとつ」という解釈には様々あるのだが、それは置いておくとして……

 召喚体は、その能力を使って召喚者を手助けするのだが、召与才能ギフテッドは千差万別で、召喚体の数だけあると言われている。

 なので、召喚術士の格とは、すごい召与才能ギフテッドを持つ召喚体をどれだけ揃え、どう使いこなすのかで決まる……なんてことを言っていた。


「あの武装が召与才能ギフテッドなのは間違いないけど、だったら、あの身体能力は異常だよな……」

「だから~、あのチカラも含めてギフトなんじゃないかな~」


 二つの召与才能ギフテッドを授かった稀有な例……ではなく、武装と身体能力をまとめて、ひとつの召与才能ギフテッドで実現している?


「だって、シアちゃんのチカラ、今は普通だからね~」


 家の中で鎧姿だと窮屈だろうと思い、楽な格好をしていいと言ったら、シアは武装を解除して素っ裸になった。

 サンディーが慌てて、メイプルの予備の服を着せたが、驚いたシアが抵抗してもサンディーが怪我をしたり、ぶっ飛ばされるようなことはなかった。

 つまり、あの身体能力の秘密は、武装にあるということだろうか。


「余計なお世話だと思うけど、しっかり確かめておいたほうがいいわよ。あの子たちの才能を生かすのだって、召喚術士の役目なんだからね」

「そうだね。ちなみに、フィーリアの召与才能ギフテッドって何?」


 なぜか、呆れた表情で、盛大にため息を吐かれた。


「教えるわけないでしょ。召与才能ギフテッドは私たちの強みだけど、弱点にもなるんだからね。悪意を持つ相手が、その能力を封じる対策をしてきたら、どうするのよ?」


 そりゃそうだ。


「ごめん、フィーリア」

「だから、ちゃんと確かめるのはいいけど、絶対に口外しないこと。たとえ相手がすごくいい人でも、宮廷召喚術士や国王相手でもね。もちろん私にも言う必要はないわよ」

「王様に、教えられません……なんて、言えるかな」

「そういう時のために、それっぽい答えを用意しておくものよ。その点、妹さんたちは分かり易くていいんじゃない?」

「そうかな」

「頑張り屋さん、家事がすごい、力がすごい……って感じかしら」


 なんだか適当だが、たぶんそのぐらいで丁度いいのだろう。


「うん、分かったよ。ありがとう、フィーリア。フェルミンさんも」

「どういたしまして」


 他に人がいない時など、もし機会があれば聞いてみよう、と思ったのだが……


「でもその前に、ハルキは念話を習得しないとね。そういう話って、言葉にすると、どうしても漏れちゃうから……」


 風精霊フィーリアは、最後にそう忠告してくれた。

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