第43話

 仮面の鞭女と戦う縁。


 何度か分裂と復元を目のあたりにしたことで、彼女はある事に気づいた。


「これでイケるかな?」


 そう言って無数の羽虫をけしかけ、その群れに隠れて氷の糸を仕掛ける。


 羽虫にまぎれて放たれた糸に捕らわれ、分裂して逃れる女。


 縁は糸から逃れるヒモ状の群れの中から何かを見つけ出し、


「そこ!」


 と言って、角が刃物のようになった氷のカブト虫を放つはなつ


 カブト虫はヒモ状の群れにまぎれて移動する、女のつけていた仮面に突き刺さる。


 ギャー、っと悲鳴をあげて砕け散る仮面。


「よぉし、やっぱりあの仮面が本体だったんたね。これで……」


 勝利を確信した縁だったが、その表情が曇る。


 ヒモ状の群れはまだウネウネとうごめいており、先程までのスムーズさは無いものの、また人形ひとがたになろうとしていた。


「お姉ちゃん……、お姉ちゃん!」


 人形ひとがたから女性の声が聞こえてくる。


 仮面があったときの女性の姿からはほど遠い、紐を束ねて作った不格好な人形にんぎょうの様な、わら人形の様な姿の鞭女。


 右手には最初から持っていた武器の鞭を持って何も持っていなかった左手は、腕がほどけて数本の鞭になっている。


「お姉ちゃんんんん!」


 低いうなり声のような調子で姉を呼ぶ鞭女。


 鞭の弾幕が縁を襲う。


 氷の虫を盾に攻撃をしのごうとするが、鞭が増えたことで手数が増して防ぎきれない。


 攻撃を受けて倒れる縁。


 しかし女の鞭は凍りつき、そこから伸びる氷の糸が壁や天井、床に貼り付き動きを止める。


「うーし」


 そう言って起き上がる縁。


 だが鞭女は頭部をほどき、数本の鞭状に変化させて縁に向かって振り下ろす。


 間一髪、回避する縁。


「オニヤンマ〜、オニヤンマ〜」


 縁はそう言いながら両手の人差し指をクルクルと回してみせる。


 ふと気づくと鞭女の右手に握られていた鞭に氷でできたオニヤンマがとまっていた。


 オニヤンマは鞭を凍らせると粉々に砕いて飛び去る。


「おねぇちゃ……」


 その言葉を最期に鞭女は崩れ落ち、動かなくなる。


「鞭と仮面が本体で姉妹だったのかな……」


 切なそうにゆかりが言う。




「姉妹がやられたか」


 庸助と戦う男が言う。


「何だあんた、喋れるのか」


「……」


「なんなんだよ……」


 スルーされてボヤく庸助だったが対峙する男の異変に気づく。


 今は右手が剣になっているのだが、それはそのままで左手も剣に変化する。


「おいおいおい、そんなのあんのかよ!」


 驚きの声をあげる庸助。


 そして予想通り、パワーとスピードが上がった状態で斬りかかってくる。


 劣勢にたたされる庸助は覚悟を決めて切り札を使う。


 庸助の持つ大剣、両刃のグレートソードが縦に裂けるように半分になり、残りの半分は庸助の身体にくい込み同化する。


「あっ、同類とか思ってんだろ。まぁ、否定はしないけど」


 そう言って男に向かっていく庸助。


 パワーもスピードも上昇した庸助が今度は圧倒する。


「最初からそれ、やんなかったのは制限なりリスクなり有るんだろあんだろ。とっとと決着つけようぜ!」


「ぐっ……」


「くそっ!」


 2人分の声が聞こえる。


「コイツ……、コイツじゃなくてコイツらなのか?」


 パワー重視とスピード重視の人間を1つの身体に入れて切り替えながら戦わせている。


 それが庸助のたてた仮説だった。


「そろそろ限界だぞ」


「ああ、やるしかないな」


 男は1人で会話すると両手の剣を上段に構え、振り下ろす。


 2つの斬撃がまざり急加速する。


 避けられない。


 斬撃の速度を見て避けられないと判断した庸助は剣で受ける。


 早くて重い一撃を辛うじて受けとめる。


 しかしすでに男は庸助の左側に回り込んでおり、追撃を仕掛けてくる。


 だか、それを見た庸助の左手に割れた大剣の片割れが現れる。


 男はそれを見てもなお止まらす斬りかかってくるが、庸助はそれをかわし両手の剣で挟むように斬りつける。


 大牙絶咬たいがぜっこう


 庸助の持つ大剣型の呪因具「大牙」固有の呪因剣術。


 男は両手の剣で受けようとするが、その剣ごと身体を両断されて絶命する。


「コッチも時間切れか」


 そう言うと、大剣「大牙」は元の形状に戻り庸助も片ひざをつく。




『刻因拳ってのは刃沙魔の初代当主が練条家の初代当主と共にあみだしたと言われる技術でな、相手の力を利用するだけじゃなくて龍脈や霊脈も利用する刃沙魔の集大成的なモノだと俺は思っている』


 これはテラス会の戦いの後、アオマが蒼馬に言った言葉だ。


 龍脈とは大地を流れるエネルギー網で瞳やたまにアオマも利用するモノだ。


 そして天に流れるエネルギー網を「霊脈」呼ぶ。


 これは同じ五体家の星見家が扱いに長けており、呪因界隈では天の星見、地の龍瞳と言われている。


 その2つの技術を扱うのが刻因拳なのだという。


『刃沙魔が潰えた今、この2つの技術を扱うのは刻因拳ぐらいしかない。それだけでも希少な流派だ。俺も龍脈は扱えるが霊脈の方はあんまりなんだ。蒼馬、機会があればあの男の戦いをよく見ておけ。たぶん、刻因拳はお前と相性が良い。色々と参考になるはずだ』




 その刻因拳の使い手、脇坂 大樹ワキサカ ダイキは牙のナンバー2ことガイを相手に苦戦を強いられていた。


 刻因拳が通じ辛いというのもあるがこの男、1人であって1人ではないという結論に脇坂は至っていた。


 霊脈と龍脈、この2つを使ってさぐった骸の力の流れが人1人のものではなかった。


 何らかの生体改造を受けてこの様な状態になったのだと脇坂は推測した。


「来る、」


 そう言って脇坂が身構えると、彼の足元と真上の天井から刃状の骨らしき物が生えてくる。


 ギリギリまで引きつけてから回避するが、逃れた方向の壁から新たに刃状の骨が生えてくる。


 この部屋全体の気配を感知して分かったのだが、すでに部屋の壁や床、天井におそらく骸の骨が根のようにはびこり、自由に攻撃できる状態になっている。


「こりゃあ、後で床や壁を修理するようか」


 そんな事をボヤきながら高速で骸に接近してラッシュを浴びせる。

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蒼き呪因と真紅の傀儡姫 @suzukichi444

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