第42話

 呪因を食らう敵を相手に、瞳と双羽のコンビは苦戦をしいられていた。


 巨体の男は無条件で呪因を食らう事ができるわけではなく、一度受けた呪因のみ腹の口で吸収できるようだ。


 ここまで調べるために何発も呪因を放ち、息をきらせる瞳とそれをかばうように彼女と男の間に立つ双羽。


 いかに双羽がバカ力の持ち主でも、この男を一撃で倒せるほどのモノではない。


 瞳が強力な呪因で一撃で倒す。

 

 それがこのコンビが導きだした巨体の男の攻略法だった。


 しかし瞳には迷いがあった。


 この男を倒すには最も攻撃力の高い呪因を使うべきなのだか、その呪因の候補が2つあった。


 1つは瞳が得意とし、龍瞳家秘伝の奥義と言っていい必殺技。


 もう1つはある事情から使用をためらっている炎の呪因。


 どちらも瞳の手持ち呪因ではトップクラスの攻撃力なのだが、前者の「蒼天・龍皇破そうてん・りゅうおうは」は双羽が良く使う波動と同じ系統のため、いきなり食べられる可能性を考えていた。


 もう1つの「火龍・焼激かりゅう・しょうげき」は炎の呪因で男の再生力に対して相性が良い。


 だが、瞳はかつて訓練中に炎の呪因で近しい人物を傷つけてしまいそれ以降、積極的に炎の呪因を使う事は無かった。


「足元がお留守ですよ」


 巨体の男の足に渾身の一撃を見舞う双羽。


 そのバカ力で怯み、片ひざをつく男。


「てやぁっ!」


 と、愛用の錫杖を男の頭部めがけて振り下ろさんとする双羽だったが、男は目に巻かれた包帯を引きちぎり目のあるはずの部位を双羽に向ける。


「へっ?!」


 と、一瞬呆気にとられるもすぐに我に返り攻撃を継続しようとする双羽。


 双羽が呆気にとられた理由。


 それは男の両目のあるはずの部分にも口が有ったからだ。


 そしてその口から先ほど吸収した双羽の波動を吐き出してくる。


「ひっ!」


 と叫び回避行動をとる双羽。


 直撃は避けたものの利き腕にダメージを負ってしまった。


 迷っている暇はない。


 そう判断した瞳は両手のひらを男に向け蒼天・龍皇破を発動させる。


 龍の形をした高密度のエネルギー波が男をのみこむ。


 龍皇破によるダメージが男の再生力を上回っており、このまま押し切れる。


 勝利を確信した瞳と双羽。


 しかし次の瞬間、男の再生力がダメージを上回りはじめる。


 男の腹の口が龍皇破を吸収しはじめたのだ。


 瞳の予想が当たってしまった。


 男は目の位置にある口を瞳に向ける。


「まずい!」


 そう言って瞳は所内の壁や床から防御の壁を生やし攻撃に対処しようとするが、こんな物で防ぎきれないのは呪因を使った当人が一番よくわかっていた。


 放たれる龍皇破。


 食われたのは半分くらいか?


 それでも大ダメージを覚悟しなければならない。


 そうなれば勝ちの目は終える事になり、撤退もやむを得ない。


 最悪、双羽だけでも逃さなくては。


 そんな考えが巡る瞳の前に双羽が立つ。


 彼女は全ての防壁を吹き飛ばして瞳に迫る龍皇破をその身で受ける。


「双羽、アンタいったいなにやってんの?!」


「瞳ちゃんは私のパートナー何ですから、このくらい当然です」


 笑って応えてみせる双羽。


 そして瞳は気づく。


 双羽の身体が波動を纏っている事に。


 この状態は身体に大きな負担がかかるため長くは維持できない。


「私は切り札、切っちゃいましたから次で決めちゃってください」


 そう言って背を向ける双羽が続ける。


「気負わないでくださいね。私にとって一番は瞳ちゃんなんです。その瞳ちゃんが駄目だったら大人しくあきらめます」


「バカ、何言ってるの!」


「瞳ちゃんのこと、信じているんです。だからどんな結果になっても恨みつらみはありません」


 そう言って再び男に向かっていく双羽。


 かつて瞳が訓練中、炎の呪因で大火傷を負わせてしまった近しい人物。


 それは双羽だった。


 今の彼女の言葉は瞳の迷いを見透かしたモノのように思えたが、たぶんそれは無いだろう。


 このピンチに自分の思いを素直に伝えただけ。


「信じているから恨みもつらみも無いですって?冗談じゃないわよ!またアンタを焼いたらコッチは一生立ち直れないっての!!」


 瞳は再び両手のひらを男に向け呪因を発動させる。


「アンタにもしもの事があったらアタシもタダじゃ済まさないんだから、アタシを助けるつもりで生き残りなさい!!」


 瞳から放たれる炎の龍が巨体の男を包む。


 苦痛を全身であらわし、燃え尽きる男。


「口が3つもあるのに一言も喋りませんでしたね」


 波動の限界に達してペタリと座りこみ、いつもの調子に戻った双羽。


 そうね、とだけ応える瞳。


 瞳に手のひらを向ける双羽。


 それを見てハイタッチする瞳。


「瞳ちゃん……。一人で立てないんだけど、手かしてくれる?」


「あっ、ごめんごめん」


 瞳の肩を借りて立ち上がる双羽だった。




 支部長室で敵と戦う脇坂だったが、その敵に違和感を持っていた。


 刻因拳とは相手に因を刻み当人の呪力と結びつけることで、敵の呪力で強力な呪因を発動させるというのが基本型である。


 これに自身の呪力を加えて呼び水にしたり遠隔で発動させたり、また呪力を持たない器物にも呪因を仕込む事ができる。


 しかしこの敵、骸はその呪力と因を上手く結びつけられない。


「1つの肉体に複数種類の呪力が流れているみたいだな」


 ポツリと呟く脇坂。


 ここまでに何度か攻撃を打ち込み、自分の呪力だけで呪因を仕込んでいたが本格的な攻勢に出るためにはもう1つ準備が必要だった。


「奏美ちゃん、陣さん頼むね」


 そう言って床に拳を撃ち込む脇坂。


 すると奏美と陣野の2人が床に沈んでいく。


「班長?!」


「たぶんアイツ、陣さんと奏美ちゃん狙ってくるから避難しといて」


 下の階から感じ取れる敵の気配がほとんど無いのを感じ取り、2人を2階に逃がす脇坂。


 ここまでその事を考えながら戦っていたのだし


「あ〜、逃したか。まぁいい、真面目に戦うか」


 骸は2人が消えた方を見ながら言う。


「そしてここからが本当の本番だ」


 そう言って大気鳴動波を骸に向けて撃ちだす。

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