第41話

(佐渡さん、彼らに牙の情報を教えてあげなくて良かったの?元々牙に居たんだよね?)


 吉崎 吾郎ヨシザキ ゴロウを名のる佐渡 修吾サワタリ シュウゴに彼を監視する何者かが話しかける。


「なんだい突然。彼らの心配でもしてるの?僕の情報なんて古くて役にたたないよ。もう、20年ぐらい前の話だからね」


(牙の設立当初からのメンバーだったんだよね?当時はどんな集団だったの?)


「いたって普通の傭兵集団だったよ。最初のリーダーも武闘派寄りだったけど組織を率いる知性も人格もあった。今みたいになっていったのはアイツが入ってきてからだ」


(アイツ?めずらしいね、佐渡さんがアイツなんて呼び方するの)


「まぁ、確かに僕がそんなふうに呼ぶのはアイツぐらいしかいないかもね」


 佐渡は嫌悪感を隠そうともせずに語る。


暗生 蓮造クラキ レンゾウ。アイツが入ってから牙はおかしくなりはじめた」


(どういう人なの?)


「一言でいえば得体がしれない。呪因師として腕は立つんだが妙な呪因具を所有していたり、アイツと同じ得体のしれない連中を牙にひき入れたり。リーダーが何度か代がわりしたんだけど、あるときその連中の1人がリーダーになっちゃったものだから初代についてきた様な初期メンバーはほとんどはなれちゃってね。まぁ、要するに乗っ取られちゃったわけよ」


(それでアイツなわけね)


 佐渡はああ、とだけ答えてこの話題を終えた。




「ゲッ?!」


 仮面の鞭女と闘う縁が驚きと嫌悪感の混ざったモノを吐き出す。


 縁の氷の糸に捕らわれていた女のその身体は、ほどけるように無数のヒモ状になり脱出する。


 そして離れた場所で人形に戻り、鞭で攻撃をしてくる。


「ヨースケェ、相手変わって。こいつ嫌だ」


「ゆかりん、コッチも大差ないぜ」


 庸助の返事を聞いてその相手をよく見ると、一体化している剣の神経のような物がウネウネと動いていた。


「えんがちょえんがちょえんがちょ、もうヤダよコイツら」


「しかしコイツら、下の階の連中と毛色が違うな。なんか生体改造されてるみたいな。うぉっと」


 庸助は自分の相手の攻撃をかわし、背後に回り込む。


「パワーは有るがスピードはそれ程でもないな……。あれ?なんか違和感が……」


 右腕が剣と同化している男はそれと向かい合うと左側に剣がある。


 その状態から背後に回り込んだのだから庸助から見て右側に剣がなければおかしいのだが、正面から見たときと同じ左側に剣がある。


 次の瞬間、敵の男は高速で庸助のふところに飛び込んでくる。


 間一髪、攻撃をしのぎバックジャンプで距離を取る庸助だったが先ほどとは比べものにならないスピードで追撃をしてくる敵の男。


 再び向かい合って確信したが、剣が左手に付いているのは間違いなかった。


 攻撃をさばいていて気がついたのは、右手に剣が付いているときよりパワーが落ちているという事。


「右手がパワー重視で左手がスピード重視か」




「この人たち見た事があります」


「あぁ、知った顔がいくつか……」


「死霊術だね。牙の捜索中に行方不明になった……。おそらく殺害されてまだ死体がみつかっていない局員達だね」


 里穂と光二が驚き、英司が情報をまとめる。


「見たかね、私の死霊術。なぁに仲間はずれになんてしないさ。君達もこの葬列に入れてあげよう」


 3人の前に、殉職した局員達を操る死霊術師と彼に従うかつての仲間達が立ちふさがる。


「葬列って送る側だよね。送られる側なら死者の行列とかじゃないの?」


 煽るとかではなく天然で英司がツッコむ。


「いいんだよ、葬列の方がカッコイイだろ。行列じゃあ格好良くないから葬列にしたの、これでいいんだ!まったくこれだから低俗な連中は。話をして損した」


 急に癇癪かんしゃくを起こすように騒ぎ立てる死霊術師。


 その間に里穂は呪符を放ち、死体となって操られている元局員達に貼り付ける。


「なんだ?!なんで言うことを聞かないんだ!!」


 死霊術師の男が慌てる。


「一時的にですがあなたの命令を遮断しました。彼らは後で丁重に弔わせていただきます」


 さらに里穂は死霊術師に向かって大量の呪符を放つとそれは、連なり8つの帯状になると男を包み込む。


 秘儀・八岐大蛇やまたのおろち


 動きと呪力を一時的に拘束する呪因。


「荒ぶれ水龍」


 光二がそう叫ぶと、彼の水龍を形作る水流が波打ち荒々しくなる。


 荒神・水龍


 水龍の攻撃特化形体が死霊術師を包み込んだ呪符ごと叩き潰す。


「がはっ、この僕を……。こんな目にあわせやがって、この低俗どもめ!」


 胸から上だけとなった死霊術師の残骸が呪いの言葉を吐く。


 この状態で生きているということ。


 それは彼自身動く死体かそれに類する者なのだと一同は解釈した。


「うるさいよ」


 英司の言葉とともに彼女の作った壁が箱を形作り、死霊術師を押しつぶす。


「君は丁重に弔ってあげない」


 そう言うと英司は死霊術師の入ったこぶし大にまで圧縮された箱を「ゴミはゴミ箱へ」とはり紙のされたゴミ箱に投げ捨てる。


 







 

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