第39話
蒼馬達が到着した県北支部は既に戦場になっていた。
応戦していた局員の話によると、突然所内外に牙と思われる一団が現れたとの事だった。
『空間転移が使える呪因師が複数いるかもな』
アオマはそう言うと先ほどの戦いで使ったのと同じ様な青白い光の玉を複数周囲に放った。
『空間転移系の呪因は使うと独特の呪力の波動を出す。それを感知することで対処できる。一応な』
また、紅音を乗せた車両の後ろを走っていた管理局の車の運転手の話から、やはり空間転移系の呪因を受けた可能性が高いとなった。
『蒼馬を殺しやすくするというのもあるだろうが、県北支部と合流されるのも厄介って考えだろうな』
「確かにお姉さま不在は戦力の大幅ダウンですもんね」
アオマの分析に納得する双羽。
「何弱気な事言ってるの。県北支部は私達県北支部局員で守る。当たり前の事じゃない」
「それはわかってますけど、さっきの転移使いだってアオマさんいなかったら結構ヤバかったですよ。使えるモノはトコトン使い倒さないと!」
双羽の言葉に呆れる瞳と苦笑するアオマだった。
所内では各所で戦闘が行われていた。
「光二くん!」
里穂が叫ぶと
「支部に攻め込んでくるなんて、なんて奴らだ」
驚きと呆れがまざった口調で光二が言う。
「光二くん、後ろ!」
里穂の言葉に反応し、水の壁を作って対応しようとする光二だったがその必要は無かった。
「ウ〜ス、光二、里穂チャン」
光二の背後から襲いかかってきた敵は凍りついてその場に倒れていた。
それを踏んづけてこちらに向かってくる見た目幼い少女。
「う〜、さぶさぶ」
タンクトップにスパッツという薄着の縁は自分の呪因で寒がっていた。
「お昼寝してたらコイツラが降ってきてさぁ」
彼女が出てきたと思われる部屋が凍りついているのがわかる。
「まだまだいっぱいいるみたいだね」
縁が言うと、新手の敵が3人をとり囲む。
「里穂さん、呪符はどのくらい残ってる?」
「普段の半分くらい。私の事は気にしないで、いざとなれば現地調達するから」
現地調達とは所内で適当な武器を手に入れるという意味だ。
その時、青い閃光が敵を蹴散らす。
『ようやく知った顔と落ち合ったな』
アオマ達が3人と合流する。
紅音の事は一旦保留という結論になった。
『あの魔傀儡の事だ。自力でなんとかするか、何らかのサインを送ってくるだろう。それまではこちらからできることは無い。今はあの男、脇坂との合流を優先しろ。あの男の元が一番安全だ』
なんとも微妙な表情の瞳。
確かに普段ならそのとおりなのだが、今は非常事態。
県北支部の主力である脇坂が一番強敵と戦う可能性があるからだ。
しかしアオマの考え方は違っていた。
自分と脇坂が共闘すれば大抵の敵に対処できるという算段で、蒼馬を守るためにも彼との合流を優先したのだ。
「脇坂のオッチャンなら部屋にいると思うよ」
縁の言う部屋とは脇坂班が使っている班室の事で県北支部の2階にある。
「班長が大人しく班室にいるとは思えないわ」
脇坂を知る瞳は彼の性格から班室にいる可能性の低さを語る。
『かもしれねぇが、とりあえずは班室だな。何か聞けるかもしれねぇし。っとその前に』
アオマは両手を地につけ、龍脈経由で1階にいる敵の気配を探ると牙だけを狙って呪因で攻撃する。
各所で悲鳴があがり、それを確認してアオマは上の階を目指す。
「な、何ですかこれは〜」
班室に向かう途中、目にした女子更衣室を見て双羽が悲鳴をあげる。
「よぉ双羽、瞳にゆかりんも。後はえ〜と……」
「庸助センパイ、女子更衣室で何暴れているんですか!」
双羽に庸助と呼ばれた少年。
その右手には自分の身長と同じぐらいの大剣が握られていた。
「ヨースケ、こっちは片付いたけどそっちは?」
更衣室の奥から庸助を呼びながら出てくる人物。
「ゲッ、真壁センパイ」
「えっ?!」
声をあげたのは双羽と蒼馬。
2人はそれぞれ別の理由で驚いていた。
双羽は苦手なセンパイが現れた事に。
蒼馬は下着姿の真壁
「まぁ、何も言われなきゃ分かんねぇよな」
庸助はゲラゲラと笑いながら蒼馬をフォローする。
『俺の落ち度だ。説明しときゃよかったな』
「アオマさんは気づいていたの?もしかして紅音さんも?」
『ああ、魔傀儡も気づいていたろうな』
「確かに胸とか無いですけど、あの背格好とかで察しがつきませんでしたか?」
蒼馬とアオマのやり取りを見て双羽が口をはさむが、
「龍宮アウト〜」
縁が言うと突然現れた壁が双羽を挟む。
「僕は全然気にしてないよ、全然ね」
「うっ、嘘です。絶対気にしてます〜」
「気にしてないってば。でも先輩として
「班長なら支部長室に向かったぜ」
庸助の説明を受けて瞳は納得する。
「もし支部長や副支部長がヤラれれば支部全体が、機能不全におちいる事になるわ。そうなれば悪さをする連中にとって絶好の機会。班長はまずそれを回避しようとしてるのね」
『支部長はどこに?』
「支部長室は3階です。今日は外に出る話は聞いてないんで、たぶんそこです」
アオマの質問に答えたのは光二だった。
兄から借りた水龍を応急で治してもらい、兄と鱗の手掛かりをもとめて彼らの残した資料を手当たりしだい調べていた彼は、1日中県北支部にいたためそのへんの情報に詳しかった。
『3階か』
アオマはそう言うと軽く足で床を叩く。
2階のあちこちで悲鳴があがるが、特に気にするでも無く上の階を目指す。
『2階は牙の連中が少なかったな。局員が対処した結果か元から少なかったか。1階もこれといった手練はいなかった』
「3階に主力がいるって事?」
『その可能性が高いな』
縁の質問に答えたアオマは続ける。
『そもそもここまで俺が見た中で1番の手練はあの転移呪因を使う奴で2番手が大男だ。噂通りなら主力が3階にいることになる。ここから先に進むなら覚悟しとけ』
アオマの言葉で気を引き締めた一同は3階を目指す。
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