第38話
『気をつけろ、あの大男の気配は突然上空に現れた。どちらかが空間転移の呪因を持ってる可能性が高いぞ』
注意をうながすアオマ。
空間転移の呪因は高難度ではあるが習得者はそれなりにいる。
ただそれを実践で使えるレベルの者は決して多くは無い。
運転手の男は呪符を取り出し武器庫から槍状の武器を召喚する。
双羽はいつもの錫杖を構え瞳は地面に両手をつき複数の壁を生やす。
「あれ?!」
索敵感知を展開した蒼馬が不思議そうな声を出す。
後ろからついてきていたはずの紅音達が乗っている車が感知できない。
『いや、索敵ミスとかじゃねぇぞ。本当に魔傀儡達が乗ってる車が消えた。あの大男が上空に出現するのと同じタイミングでな』
アオマの説明に動揺する蒼馬。
『おそらく空間転移系だと思うが、こいつら以外にそれを使う奴がいるとすると厄介な事態だぞ。あの魔傀儡を無力化させるのに最も効果的なやり方だからな』
「どこか遠くに飛ばしてしまうか、亜空間に閉じ込めるか。彼女の攻略法としては確かに正解かも」
アオマの仮設に瞳も同意する。
「この面子でやるしかないわけですね」
何故か自身満々の双羽。
「ハッ、威勢のいい小娘は嫌いじゃないぜ。なぶり殺すとき大人しくなるのがたまらなくいいんだ」
そう言って大男は瞳の作った壁を破壊しながら双羽に接近し、大剣を振りおろす。
錫杖で受けようとする双羽を見て、
『受けるな、避けろ!』
と忠告するアオマ。
しかし双羽は回避しようとはせず、そのまま錫杖で受け止める。
『なに?!あれを受けとめただと!!』
アオマが見るかぎり、身体強化に使われている呪力の量は敵の男の方が圧倒的に多かった。
それをくつがえすという事は呪力に頼らない素の身体能力で双羽が圧倒しているということだ。
双羽はそのまま大男を押し返し大男と小柄な男は唖然とする。
双羽は押し返しながら錫杖を地面に突き刺し、それを軸に遠心力を利用して大男に飛び蹴りを食らわす。
『やっぱりゴリラだったか』
「聞こえてますからね、アオマさん」
双羽とのやり取りの間にアオマは拳ぐらいの大きさの青白い玉を1つ、ビー玉ほどの大きさの青白い玉を複数作り出してそれを発射する。
大きな玉は小柄な男の方に、小さな玉の群れは大男に向かっていく。
アオマの放った玉は瞳の作った壁をかわしながら飛んでいく。
「チッ、
そう言って青白い玉をかわしながらナイフを取りだし、投げる様なポーズをとる。
すると小柄な男の手からナイフが消え、全く無関係な場所に現れ突き刺さる。
「なんだ、何故こんなに狙いがズレた?!」
『お前を追いかけているその玉は呪因をみだす。並の呪因ならともかく、空間転移のような高度な呪因は使えんぞ』
くっ、と言って歯噛みする小柄な男。
一方小さな玉の群れは大男を包囲すると青白い光で結ばれネット状になって大男を包む。
『くらえ』
アオマの言葉とともにネットの内側全体が青白く輝きだし、同時に大男の断末魔が響きわたる。
ネットが消えると黒こげの大男が力尽きてその場に倒れる。
「くそっ、いいとこ無しか」
小柄な男はナイフを蒼馬めがけて投げるが避けられる。
そして青白い大きな玉は分裂してネット状態になり、小柄な男も大男と同じ運命をたどった。
「チッ、あいつらしくじりやがった。魔傀儡を引き離してやったのに」
「魔傀儡以外に何かあるのかもな。しかしいいのか?あのガキ、死季と狼怒の獲物だろ?」
「奴らがもたついているのが悪い。小僧はともかく、魔傀儡が県北支部に合流するような事になったら手をやくのは俺達だ。主である小僧を始末して退場させるのが上策だ」
亜空間に紅音達の乗るバンを捕らえた牙の男2人組の会話だ。
一般的な呪因師の認識では、主を失った魔傀儡は機能停止すると思われているが、それは契約に必要な最低限の魂しか持たない魔傀儡の話である。
紅音のように先代の主の魂や蒼馬の魂を2割持っていった魔傀儡が主を失って大人しくなるのか、と言われると何とも微妙な話なのだ。
そして彼ら牙は蒼馬の中に居るアオマの情報を持っていなかった。
「とにかく、できる限りこの魔傀儡をここに幽閉しておく必要がある。県北支部を壊滅させるにしても小僧を殺すにしても」
「まんまとやられてしまいましたね」
自戒の念をこめながら紅音は呟く。
空間転移により亜空間に飛ばされた紅音達。
紅音が同乗したバンには魔傀儡アイカとイヅミ、運転手を含む管理局員3名が乗っていた。
敵はまだ何も仕掛けてくる様子がない。
足どめが目的だとしたら外では既に蒼馬が襲われてい可能性がある。
彼と別の車両に乗った事を後悔し、
「お母さまのせいですよ」
ポツリと呟く紅音。
呪因で作られた亜空間の性能は作った呪因師の力量と払った対価の量によって決まる。
この亜空間の完成度は高く、先ほどから管理局員の1人が解呪を試みているが進展が無い。
やもえず紅音は最終手段に出る。
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