第36話
紅音を挟み撃ちにした敵は刀を持ち、右側は一刀流、左側は二刀流。
おそらくどの刀も呪因具で使い手よりもそちらに注意する必要があった。
紅音は素手の男には向かわず、急に方向を変えて一刀流の方に向かう。
敵とすれ違うように身体をずらし、顔面に拳を、腹部に肘打ちを食らわせ無力化する。
二刀流使いが二刀を振りおろし斬撃を飛ばしてくるが、紅音はあえて素手の男の方に回避しながら両方の敵に爪弾を発射する。
二刀流使いは回避しつつも避けられない爪弾は刀で斬り落とし、素手の男は全身をおおう呪力を強め爪弾に耐える。
しかし刀で斬り落としたと思われた爪弾はヒモ状に変化し、刀に巻きつきながら二刀流使いの腕まで達する。
なんとか振り払おうとするが、ヒモはさらに伸び続けて二刀流使いを縛りあげてしまう。
一方、素手の男は呪力で爪弾を防いだものの、その爪弾が男をおおうように広がり包んでしまう。
「マスターの方は……」
瞳と双羽が加勢に向かってきていた事は気づいていたが、敵がどんな相手かはまだ見ていなかった。
「え……、あの子達は……」
『気をつけろよ、紅音程ではないがこいつ等かなりの完成度だぞ』
まず2体の魔傀儡が動く。
真っすぐ蒼馬を狙ってくるのを見て瞳は地面をせりあげた壁を連続で作り出しそれを阻もうとするが、魔傀儡達はひるむことなく壁を破壊しなが向かってくる。
しかし破壊された壁の破片は魔傀儡達の周囲を囲み手を形作ると彼女達をつかみ拘束する。
「せぇい!」
という掛け声とともに地面に突き刺した錫杖に手をかざす双羽。
錫杖から放たれた波動が拘束した手ごと吹き飛ばす。
『結構な威力だな。だがどの程度効いてるか……』
アオマが呟くとその背後にもう一人の敵が迫る。
ちっ、と言いながら障壁を展開し爪男の攻撃をしのぐアオマだったが敵の姿に違和感をおぼえる。
『爪が無い?!』
爪男と呼ばれた敵は当初装備していた爪付きの手甲をつけていなかった。
『土中か?!』
あえて大声を出すことで瞳と双羽にも注意をうながす。
蒼馬の索敵網にも爪付き手甲は感知され、その部分の密度を高めて爪の動きを止める。
『先にこの爪男を始末するぞ』
そう言ってアオマが手印を組むと彼の上空に青光りする矢が現れ爪男に向けて発射される。
爪男は回避をこころみるが地面が足を掴んで動けない。
これは瞳の仕業だ。
呪力を集中させ青光りする矢をしのぐが、次の瞬間背後にまわった双羽のフルスイングを食らって戦闘不能になる。
『これで厄介者に専念できるな』
言ったアオマの視界の端で2体の魔傀儡が立ちあがる。
『もう一度動きを止めてできるだけ高火力の呪因を撃ち込む。一撃で倒せなくても連続で撃ち込んでダメージを蓄積させる』
「待ってください、彼女達は私が何とかします」
自分に向かってきた敵を全て片付けた紅音が口をはさむ。
『早かったな魔傀儡……?!』
アオマが紅音に違和感を感じる。
「あの子達は私が止めます」
そう言って駆け出す紅音。
敵の魔傀儡1体をつかみ、力ずくで拘束すると彼女に唇を重ねる。
「お、お姉さま。そんな、とうとう本物のお姉様に……」
訳のわからない言葉を発する双羽をよそにアオマと瞳は事の成り行きを見守る。
瞳もあの魔傀儡達が正規の方法で運用されてない事に気づいており、紅音の行動はそれへの対処なのだろうと解釈していた。
もう1体が紅音を無視して三度蒼馬に襲いかかろうとするが、紅音は彼女を背後から取り押さえて無理やり口づけをする。
紅音の口づけを受けた魔傀儡は動かなくなる。
「そんな所に隠れてないで出てきたらどうですか」
そう言ってある方向を睨みつける紅音。
彼女が口の中にあるナニカを噛み砕くとギャ、と悲鳴を上げて何者かが倒れる。
電柱の影に隠れてこちらの様子を見ていた男。
彼を引きずって蒼馬達の元へ戻ってくる紅音が男の指にはめられた指輪を見せながら語る。
「彼が一応あの子達のマスターです。この指輪によって無理やりあの子達の魂を縛って操っていたようです。彼女達にかけられていた支配術を私の血を使って固めて吐き出させて、それを使って呪詛返ししました」
「自分が何者かわかりますか?」
意思を取り戻した1体の魔傀儡に紅音がたずねる。
「ん……、ちょっとまって。え〜と、
「自分の身に何が起こったかわかりますか?」
「……、うん。魂を抜かれてこの身体に入れられて……。長い事操られてた」
「そうです。そして残念ながら人間には戻れないと思います」
「あ〜、大丈夫。それはわかっているから。あいつらのやり口ってさぁ魂抜いたあと、抜け殻を変な化物に食わせてたから。アタシが食われんの見てたし」
魔傀儡アイカの言葉を聞いて一同は絶句する。
『たぶん食わせたという化物ってのは因果獣だな。魔傀儡の邪法と因果調伏を同時にやってたわけか』
アオマが嫌悪感をあらわにしながら語る。
そんな中、もう1体の魔傀儡が起きあがる。
「自分が何者かわかりますか?」
先ほどと同じように紅音がたずねると、
「
「聞いていたの?」
という紅音の質問に静かに首を立てに振るミヅキ。
アイカはメイド喫茶でアルバイトをしていたらしいがその店が邪法使いが経営する店だったらしくある日突然、邪法により魔傀儡にされたらしい。
過去の事件で似たようなモノのデータを紅音が持っており、オーダーが入ると最も適した魂を魔傀儡に入れて販売していたという。
今から10年以上前に管理局が強制管理執行を行っており、その店の名前が一致した。
「あ〜、そんなに時間たっているんだ。もう誰もおぼえてないよね〜」
一方のミヅキはまだ小学生ぐらいか。
どう接していいのか悩む蒼馬だったが、
「気にしないで。長いこと入院生活でまともに外に出れなかったのに比べれば悪くはないから」
というポジティブな言葉が帰ってきた。
とはいえ家族や友人らと離れてもう会えないかも、と考えれば強がりに見えてしまう。
「脇坂班長に相談したんですけど、しばらくは県北支部であずかっても良いという話なんですけど、どうですか?」
スマホを片手に瞳が紅音にたずねる。
アイカとミヅキにこの話をしても難しいのでは、と考えたからだ。
「責任者の方と話したいのですが、そのうえでの決定でよろしいでしょうか?」
「了解だそうです」
こちらの話はついた。
だが蒼馬の顔は晴れない。
その理由の1つは紅音の気配がおかしい事。
もう1つはまだ索敵感知の範囲内に敵らしき気配がある事。
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