第35話

 毒島が2階に戻ったころ、飯田は変わりはてた姿で息絶えていた。


 飯田だけではない。


 本部に戻った毒島は他の調査に出ていた者達にも犠牲が出た事を知った。


 呪因管理局員は基本的に2人1組で行動する。


 今回たまたま、ふた手に分かれた毒島と飯田だったが、他は2人で行動していたため牙らしき敵と遭遇した者達は全滅していた。


 毒島は運良く生きのびたということになるが、自分の手の届く場所で同僚が息絶えた事に後ろめたさを感じていた。


「引きずるんじゃねえぞ、毒島」


 そう言って彼を気遣うのは毒島の所属する松村班の班長、松村 武マツムラ タケシ上等だ。


「お前が生きて帰ってきたおかげで牙らしき連中の仕業だとわかったんだ」


 毒島が静かにうなずいたのを確認し、その場を去る松村。


「マツさん、ほかの支部でも殉職者が……」


「そうか、県北をマトにしているなんて話があったがガセだったか?」


「どうでしょ、雇い主を殺害する様な連中ですからねぇ。どこ所属とかあんまり考えていないんじゃないですかね」


 松村に話しかけた局員が言う。


「確かに、狂犬とか猛獣なんて例えられる連中だからな。これからはコンビ単位での行動はひかえて最低でも小班単位で動くよう上に進言するか」


 そう言って召集された緊急会議の場へと向かった。




「牙は大きく3つの階級みたいなものがあります。一番上が主力級、2番目が準主力級。そしてそれ以外の下っ端。下っ端は数こそ多いですが、そのほとんどは並の管理局員で対処できるレベルです。問題は準主力以上の方たちですね」


 登校の途中で紅音が牙に関する情報を話す。


「危険度SSって総本部案件何でしょ?そっちから応援とか来ないの?」


『総本部の体制次第だな。積極的に戦力を投入するときもあれば慎重になりすぎて後手にまわる事もある』


「今はどちらとも取れない、よく言えばバランス型。悪く言えばどっちつかずみたいですね」


 蒼馬の疑問に答えるアオマと紅音。


「10年前の件とかあるのに」


『それだな、脇坂はそれを交渉に使うつもりだ。みすみす10年前と同じ轍を踏む男じゃねぇからな。それにな、俺の見た限り県北の連中は戦闘に関しちゃレベル高けぇぞ。10年前の件や今回みてぇな事を想定してたんだろ』


「龍瞳さんも龍宮さんも強いもんね」


 そんな事を口にした蒼馬の手を引っ張り、紅音はいつもの登校のルートを外れる。


「ね、姉さん?!どうしたの?」


「家からずっとつけてくる人たちがいたのですが、どうやら監視とかではなくやる気満々のようです」


「そんな、こんな明るい時間に。人通りだって多いのに」


『話に聞いてた牙って奴らのやり口に似てるな。管理局員と区別がつかないぐらいの脳筋どもなのか?』


「捕らえて聞いてみましょう。アオマさん、私が初手で何人か減らしたら人よけの結界をお願いします」


 そう言って紅音が誘導した場所は、町外れの広い空き地。


 不意に紅音の姿が消えたかと思うとあちこちで鈍い音が聞こえてくる。


 それを合図にアオマは人よけの結界を、蒼馬は索敵感知を展開する。


 索敵感知で周囲に複数の人物が倒れている事がわかる。


 おそらく紅音の手によるものだろう。


 刹那、上空で何かが激突する気配。


 それは紅音と敵らしき男の接近戦によるものだった。


 着地して対峙する紅音と敵の男。


 男は素手で全身を呪力でおおわれている。


 男が紅音に向かって走り出すと紅音も同じように男に向かっていく。


 その紅音に向かって別の敵が両脇からせまってくる。


 紅音を気遣うも、蒼馬は自分に向かってくる敵を感知しそちらに集中する。


 向かってくる気配は1つなのだが、何かおかしな気配をいくつか感じる。


 が、先ずは目先の敵。


 蒼馬を襲ったのは両手に鉄の爪の付いた手甲を装備した若い男。


 距離を取るため相手の攻撃を大きく避けたその先、読んでいたかのように襲いかかる人影が2つ。


 しかし突然、地面がせり上がり壁となってこの攻撃を防ぐ。


「てぇい!」


 と言う掛け声とともにこの敵2体をまとめてふっとばす眼鏡の少女。


「龍宮さん?!じゃあこの壁は」


『遅いぞ、大中娘ども』


「間一髪でしたね蒼馬さん。アオマさんは助ける気、無かったんですけど不本意ながら助けちゃいましたね〜」


 後半の言葉はジト目で双羽が言う。


「双羽、油断しないで。まだ動くわよあいつら」


 蒼馬の元に駆け寄る瞳が注意喚起する。


 ムクリと起きがる2つの人影。


 それは蒼馬達と同い年ぐらいの美しい少女達だった。


 しかし蒼馬にはそれが何か得体のしれない存在に感じた。


 索敵感知で気配を探っても人のものとは違い、そもそも生物ですらない。


『魔傀儡か』


 不意にアオマが口を開く。


 紅音と同じ魔傀儡。


 そう言われれば確かに雰囲気は近いモノがあるのだが、ほとんど人間に近い気配を発する紅音に対してこの魔傀儡達は人や生物とは全く異なる気配を出していた。


 紅音以外の魔傀儡を知らない蒼馬にとって魔傀儡とは本来こういうモノなのか、と納得しかけたとき、


『こいつ等は無理やり抽出された魂が使われていて、邪法でそれを縛られている。正規の魔傀儡の運用方法じゃねぇ』


「魂を抽出って……」


『肉体が無事なら再び魂を取り出して戻す事も不可能じゃねぇんだが……』


 アオマが口ごもる。


 察する蒼馬。


 爪の男と魔傀儡2体に対して蒼馬、瞳、双羽と3対3の戦闘となった。

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