第34話

『そんなにヤバイ奴らなのか?』


「管理局が設定した危険度はSS級です」


「教団天岩戸より上だね」


「それもSSS級に限りなく近いSS級です。本当にあの方がおっしゃるとおりならこの地域一帯が戦場になって多くの犠牲者が出る事になるでしょう」


 蒼馬の自宅でアオマ、蒼馬、紅音は吉崎から得た情報からこれから起こる惨事を想定していた。


「あの方の予想ですと、牙の目的は県北支部の壊滅。実際、過去に支部や本部を襲撃した事例があります」


『むしろそのくらいしか使い道がねぇとか言ってたな。細かい工作やなんかは苦手な連中みてぇだしな』


「でも何で県北支部を?」


『多分、どの支部でも本部でもいいんだろう。1つの支部が壊滅すると、他から戦力が補充されてくるだろ。そうする事で全体の戦力が薄くなる。つまり御堂が動きやすくなるわけだ。これが狙いだろうな。あの男が大きく動くかもしれないと言ったのはそこまで見越しての話なんだろ』


 御堂が動く。


 かつて故郷の刃砂間市で行われた対価の抽出。


 それをこの地で行うのが御堂の狙い。


 しかしその目的のために牙という危険な集団を使い、また多くの犠牲者を出そうとしている。


 あの時、なんとしてでも御堂を倒しておくべきだったのでは、と蒼馬は後悔していた。


『いや、奴だけは何があっても逃げのびていたと思うぞ。いざというときはパンドラの箱に蓄えた対価もあるしな』


 蒼馬の後悔を見抜き言葉をかけるアオマ。


『脇坂に牙の事はひと通り伝えてはいるし向こうも牙がこの地に入ってきている事を知っていた。総本部への応援要請が通るようミサキに根回しを頼んでおいたし、打てる手は打った。今は御堂の事だけ考えろ』


 アオマの言葉に静かにうなずく蒼馬。




 県本部所属の管理局員、毒島 隆ブスジマ タカシ飯田 真司イイダ シンジ


 階級は2等と2級。


 牙の情報は本部にも入っており、彼らの潜伏の可能性がある古びたアパートの調査に来ていた。


 老朽化が酷く今は誰も住んでいないのだが、取り壊す予算が無いとかでそのまま放置されているボロアパート。


「本当にこんな所にいると思うか?だいぶ人目につくぞ」


「連中、そういうのあんまり考えないんじゃないですか?武闘派という名の脳筋集団みたいですし」


 40歳前後の毒島のボヤキに彼より若い飯田が応える。


 彼らは現在、牙の潜伏に適している思われる人が住んていない、もしくは現在使われていない建物をしらみ潰しに調べていた。

 

 アパートは2階建てで各階4部屋、合計8部屋ある。


 上の階には鉄骨の外階段を使って行くのだが、その階段が所々腐り落ちている。


「ごめんくださ〜い」


 誰に言うでもなくに、毒島は挨拶をして敷地に入る。


 グルリと1階を見て回ったが人が潜んでいる気配はない。


「2階も見なきゃ駄目か?」


 毒島の問に、


「2階こそ、あやしいでしょ」


 そう言って階段を上りはじめる飯田とそれを見てため息をつきながら後を追う毒島。


 一番手前の部屋から調べはじめるが、ドアノブが無い。


「あれ?これって……」


 飯田が言いかけたときドアが吹き飛ぶ。


 階段の近くにいた毒島は転げ落ち、飯田は通路の奥側に身をかわしていた。


 その直後、日本刀らしき武器を持った男がとなりの部屋から飛び出し、飯田に襲いかかる。


 初撃を回避し、扉を失った部屋に逃げ込むと本部武器庫から自分の武器を召喚する。


「毒島さーん!たぶんビンゴです!援護を!!」


「こっちにも1人きた!そっちはそっちで頼む!」


 了解、と一言だけ発し目の前の敵に集中する飯田。


 それを聞いた毒島は自分を襲ってきた男と対峙する。


 毒島の相手は両手に数本ずつナイフを持ちそれを放ってくる。


 呪力が込められたナイフをかわす毒島。


 男は新たにナイフを取り出し、次の投てきの準備に入り毒島はその攻撃にそなえる。


 しかし毒島は視線の端で動く、最初に投げられたナイフが動くのに気づいた。


 呪力のこめられた敵のナイフは、投げられた後も操れるのか?!


 自分じゃ生身での対応は無理だ。


 そう判断した毒島は急所をかばいながら必死に回避をこころみる。


 致命傷こそ受けなかったが身体のあちこちを斬られ転げまわる毒島。


 それを見て今度はナイフより大きい、短剣を取り出し構える敵の男。


「あぁ、いてて。だから戦闘は嫌なんだよ」


 ボヤく毒島に短剣を投げようとする男だったが短剣を落とし、頭をおさえて両ひざをつく。


「キサマ、何をした?!」


「んなモン、教えるわけないだろ」




 2階では飯田と日本刀を持った男の戦闘が続いていた。


 棒術で圧倒する飯田だったが、ぐわっ、と悲鳴をあげる。


 棒を持っていた右手が肩から無くなっていた。


 続いて両足、左腕と失い、その場に倒れた飯田は死と敗北を覚悟した。


 最期に見た光景は驚いた表情の日本刀を持った男の姿だった。




「すいません斬九ザンクさん、朽堂クドウさん。手をわずらわせて……」


「下にも1匹いるけど消しとくか?」


「いや……」


 飯田を背後から襲った2人組の1人は彼の衣服を調べ局員証を取り出す。


「県北支部の奴じゃない。県本部所属だ」


「なんだよ、殺し損じゃん」


 牙の2人と1人はその場から離れる。

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