第33話
山田 一郎太の取り調べに参加する少し前。
アオマがある仮説を話した。
『おそらく内通者は水野 鱗だ』
集まったのは脇坂班の面々に加えて
その生き残り2人を前に躊躇なく鱗が内通者だと言った事に脇坂班の面々もざわめく。
「おい!」
そう言ってアオマに顔を近づける人物がいた。
脇坂班のナンバー2、
「アンタが光二と里穂も呼べって言うから呼んだんだぞ。それを2人の前で……」
仲間を失い、ただでさえ心身ともに傷ついている2人をわざわざ呼んで追い打ちをかける。
淳にはアオマの行動がそんなふうに見えた。
いや、淳以外の面々も同じように感じていた。
『おちつけ、この話にはまだまだ続きがある。その2人を呼んだのはできるだけ早く情報をまとめたかったからだ。後手に回れば今度こそ本当に泉田 光一と水野 鱗を失う事になるぞ』
アオマの言葉に場が静まりかえる。
『水野 鱗はもちろん、泉田 光一の方も生きているぞ。この2人が協力してひと芝居うったんだ』
「ああそうだ、あの女剣士が俺達の協力者だ。だが、俺達と直接取引をしたわけじゃない」
『御堂が仲介したのか』
アオマの言葉にそうだ、と簡潔に答える一郎太。
『これで裏がとれたな。水野 鱗は弱味を握られたかなんかで御堂に協力せざるをえなくなり、それを泉田 光一に相談でもしたのだろう』
「それで2人でひと芝居うった。敵も味方も欺いて」
淳がアオマの仮説をなぞる。
『おそらく走馬刀で情報を得ようとしている事を知って実物を入手して欺く方法を模索したんだろうな』
「2人は今どこにいるんでしょう?」
奏美の質問に首を横に振るアオマ。
『水野 鱗が御堂とどんな取引をしたかだな。すでに目的を達成したのか、あるいはまだ途中なのか。もし、後者なら御堂達と行動をともにしている可能性が高い。そして彼女の近くに泉田 光一もひそんでいるんじゃねえかと』
「ここは変わってないね」
カウンター席に座るとラーメンを注文する。
すると隣の席に座る女性に目がいく。
かなりの美人?美少女?だ。
そしてその反対側の席に少年が座る。
あれ?
カウンター席は他にも空いているのにわざわざ自分の両隣に座る理由とは。
「あれ、挟まれちゃった?」
そう呟く吉崎。
『吉崎 吾郎こと
少年の口から出た言葉に驚き、口にふくんだお冷を吹き出しそうになる。
「ごめんね、質問に答えてあげたいんだけど、それやるとオジサン消されちゃうの」
必死にお冷を飲みこんで吉崎は返す。
「今こうしているときもオジサンは監視されててね迂闊な事言っちゃうと即……」
そう言って自分の首を切るポーズをしてみせる。
確かに彼の周囲からえたいのしれない気配を感じる。
アオマが彼に注目したのもそれが原因だ。
解呪なり呪因の乗っ取りなどで対応できるかもしれないが、無理強いして貴重な情報源を失うのは得策ではないと判断した。
「代りに僕以外の情報をあげるよ。牙って言うヤバイ連中がこの地域に入ってきている。差し向けたのは君達が追っている御堂だ。いよいよ大きく動くようだから気をつけたほうがいいよ」
半世紀死んでいたアオマは牙というのが何なのかわからなかったが、その名を聞いた紅音の表情に緊張が走る。
「やぁ、皆さん。お早い到着で」
御堂はとある倉庫に入ると、奥に見える人影に挨拶をする。
「挨拶は要らん。依頼の最終確認だ」
「ええ、最初の依頼どおり県北支部の壊滅。10年前の天岩戸事件みたいに人員の6割ぐらい殺してください」
「前金は」
「ここに」
御堂の後ろに立っていた背広姿の男がアタッシュケースを2つ置く。
1つには札束が、もう1つには呪因具らしき物が複数入っていた。
「それともう1つ追加で」
そう言うと御堂は自分が持っていたアタッシュケースを置く。
取引相手がそれを開けると、札束と写真が1枚入っていた。
「その写真の人物をついでに消してください。思った以上に邪魔になりそうなんで」
写真には蒼馬の姿が写っていた。
「よろしくお願いしますね。牙の皆さん」
とある繁華街の裏路地。
ぶっ飛ばされる呪因師達がいた。
「か、勘弁してくれ。商品も情報もやるから。俺達はもうこの街を出るんだ」
「だらしねぇ、牙とかいう連中がそんなに怖いのかよ」
「お前はこの世界を知って日が浅いから知らないんだ。管理局に平気で喧嘩を売るようなやばい奴らの集まりなんだぞ。あいつらが暴れだしたら管理局員だけじゃねぇ。無関係の人間まで巻き添えをくうんだ、悪いことはいわねぇ、お前もとっとと街を出たほうがいいぞ」
その場から逃げ去る呪因師たちを見ながらケッ、と吐き捨てる
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