第32話
テラス会本部。
戦闘が終わり負傷者の治療、搬送が行われている中、瞳を連れた蒼馬達が合流する。
「はぁー、県北支部のエースことダブルドラゴンが揃って搬送されるなんて……」
「ナニソレ、はじめて聞いたんだけど」
「今思いつきましたから」
相変わらずの双羽にいつも通り接する瞳。
あんな事があったのに、と感心する蒼馬に、
『痩せ我慢だ。覚えておけ蒼馬、特別な人間なんてこの世には居ない。皆どこかしらで無理をしているもんだ。あの中娘もな』
うん、とうなずく蒼馬の腕を何者かが引っ張る。
「フッキー、フッキー」
そう呼ぶのは水口 縁だった。
『なんだ水口の
「違う、バヤシじゃなくってフッキーの方」
はぁ?となるアオマに紅音が耳打ちする。
「呉林ではなく深崎の方と言う事なのでしょう」
なるほど、と納得するも消耗している蒼馬を、あまり表に出したくなかったアオマは一瞬戸惑うが蒼馬が話しを聞きたいと言うので変わる事にした。
「フッキーさぁ、呪因管理局に入らない?基本はできてるし、飛び級で管理士にならすぐなれると思うし、なんなら管理官だって目ざせるよ」
「管理局員……」
「そう、別に返事は急がないからさぁ。そっちの都合とか一段落ついたら考えて見てよ」
そう言って小さな手を振ってその場を去る。
この話、アオマや紅音からしたら以外でも何でも無かった。
名門、名家以外の局員というのはほとんどが呪因関連の被害者、被害者の身内、そして遺族である。
一般には公開されていない呪因という技術だが、二次被害などを防ぐため被害者やその遺族などにはその存在が知らされる。
この条件を満たし呪因の基礎を身に着けている蒼馬が声をかけられるのは自然な流れだった。
「水口1等、本気で彼を局員に誘うつもりですか?」
離れた場所で搬送する車両を待っていた瞳が問う。
うん、と返事する縁。
「もしかして蒼馬さんの事見初めちゃいましたぁ!」
いきなり活気づく双羽を見てもっと強く打ってくれたら良かったのに、などと不謹慎な考えを巡らす瞳。
「あの子、このまま行けばいつかは一線を超えちゃうかもしれない。その時、あたし等だったら受け皿になってあげられるかなぁって」
一線を超えるとは人の命を殺める事。
先程の彼の豹変ぶりを目のあたりにした瞳に取ってそれは決して無い話では無かった。
「おりょ、吉崎さんじゃん。久しぶりだね」
「ご無沙汰してます脇坂特上、本部からの増援です」
歳は脇坂と同じぐらいなのだがいかにも年齢相応のくたびれた感じの中年男性。
かつて教団天岩戸の強制管理執行の時に教祖の佐渡 修吾を死亡させた事で色々と言われもしたが、今は県本部に務めている1級管理士だ。
「あの教団とは中々縁が切れませんなぁ」
「ほんとになぁ、まだまだ色々と出てきそうだしな」
「教団本部で発見があったとか?」
「ああ……、ほれ、あそこにいる美人さん連れた少年くん。彼だよ」
「あぁ、彼が例の。テラス会の件も含めてしばらくは県北支部の方に出入りさせてもらいますんで、よろしくお願いします」
「水臭いこと言うなよ、実家に帰った来たぐらいの感じで良いんだぜ」
吉崎と脇坂の談笑を遠目で観察しているアオマが何かに気づいていた。
御堂達を乗せたバンは郊外の古い一軒家に到着していた。
それを出迎える一人の女性。
「遅かったな」
「思った以上に手強くって。ああ、あと君の弟君。結構ヤラれちゃったから」
「なに?!」
女は御堂の胸ぐらを掴み、
「
「い、生きてるから。戦闘でダメージを負っただけだから」
御堂は両手をバタバタさせながら女の、
『因果転生の応用で、特殊な呪因を施した子供を因果獣に食わせてその人格や記憶を移して飼い慣らす因果調伏という呪因がある。御堂が従えていたのはおそらくそれだ』
「じゃあ、少なくとも2人の子供があの因果獣のために犠牲に……」
『まぁ、そういう事になるな。だが御堂が直接手をくだしたかどうかはわかんねぇぞ。そういう事を生業にしている連中もいるからな』
県北支部のとある一室で独り言のように会話するアオマと蒼馬。
『これだな』
そう言ってアオマが取り出した一振りの刀。
『魔傀儡が交戦した奴が持っていたのと同じ走馬刀だ』
「なんでこんな物が私物入れのロッカーなんかに……」
『今
今、県北支部で起きている騒動。
先日の戦いで殉職したとされていた
『今、取り調べをしている連中の情報と照らし合わせれば何かわかるかもしれねぇな』
『これが何だかわかるよな?』
先の仁井家での戦闘で捕らえた幻術使いこと
『これを見せた意味がわかるか?お前の死体から情報を引き出せるという事だ。これからする質問に答えろ。嘘をついたりはぐらかすようなら……。わかるな?』
一郎太の表情に緊張が見えた。
『お前達に通じていた奴がいたはずだ。そいつについて話を聞かせてもらおう』
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